鉄の支配者
エレベーターの中。
シオンは事務所から監視カメラを通じて、僕たちの様子を確認していた。
しかし、そのときだった。
カメラの映像に突然ノイズが走った。
次の瞬間、映像はプツンと途切れた。
「やっぱり、そういうことしてくるよねー」
シオンは焦ることなく、すぐに無線機を手に取った。
「ミナト、ジン。映像が途切れたわ。おそらく、向こうは私たちのことに気づいてる。待ち構えている可能性が高いから、気をつけて!」
その報告を聞き、僕たちは静かに武器を構えた。
「ほら、やっぱり罠だったじゃねーか」
「仕方ないよ。こうするしか会う方法がなかったんだから」
「それもそうか。まぁ、全員ぶっ飛ばせば関係ねぇしな!」
「それができたら苦労しないよ……」
そんな会話をしているうちに、エレベーターがゆっくりと減速していった。
そして――。
チン、と音が鳴り、扉が開いた。
「おいおい……少し多すぎないか?」
ジンが呆れたように声を漏らした。
目の前に広がっていたのは、武器を手にした大勢の男たちだった。
ざっと見ただけでも、八十人近くはいる。
剣や槍を構えた男たちが、僕たちを取り囲むように立っていた。
その中の一人が、一歩前に出てきた。
「お前ら、黒石様を倒しに来たらしいな?」
なぜバレている?
このことは、誰にも話していないはずだ。
「お前らの動きがどうも怪しいもんでな。少し前から監視してたんだよ」
そう言って、男は不敵に笑った。
シオンが黒石鉄について聞き込みをしていたときに、誰かに聞かれていたのかもしれない。
あるいは、僕たちが椿タワーを訪れる前から、行動を監視されていたのか。
どちらにしても、相手は僕たちのことを把握しているらしい。
「今ならまだ許してやるよ。武器を置いて降参するんだな」
……そんな言葉を信じるわけがない。
黒石鉄の拠点を突き止め、本人を倒しに来た僕たちを、簡単に帰してくれるはずがないのだから。
「で、どうするよ? ミナト」
ジンが剣を握り直しながら尋ねた。
「そんなの、一つだよ」
僕も武器を構える。
「戦うに決まってる」
その言葉を聞いたジンの口元が、楽しそうにつり上がった。
「だよなぁ!」
待っていたと言わんばかりに、ジンは剣を構えた。
それに合わせて、敵たちも一斉に武器を構える。
「後悔しても知らねぇぞ?」
その言葉を合図に、戦いが始まった。
敵の男たちが、剣や槍を手に一斉に襲いかかってくる。
だが、僕たちは慌てなかった。
ジンが一歩前に出る。
「おいおい、もっと手応えがあると思ったのによ!」
ジンの剣が、目にも止まらない速さで振るわれた。
一人、また一人と、男たちが武器を弾き飛ばされ、床に倒れていく。
さすがの剣術だ。
正面からジンに挑んで勝てる相手は、そう多くないだろう。
「くそっ! あいつは無理でも、お前なら!」
ジンの剣術に恐れをなした男の一人が、標的を僕に変えた。
男が剣を振り下ろしてくる。
僕はわずかに体をずらし、その一撃を避けた。
続けざまに繰り出される攻撃も、体をひねり、半歩下がることでかわしていく。
「なんで当たらないんだ!? おかしいだろ!」
男が焦った声を上げた。
その隙を見逃すジンではない。
「隙だらけだぜ!」
ジンの剣が男の武器を弾き飛ばし、戦闘不能に追い込んだ。
僕は相手の呼吸や筋肉の動きから、次の行動をある程度予測できる。
だからこそ、攻撃を避けることだけなら得意だった。
けれど、僕にはジンのような力も、剣術もない。
自分から攻めることは難しい。
だからこそ、攻撃はジンに任せ、僕は敵の動きを見極めながら立ち回っている。
とはいえ、さすがにこの人数は厄介だった。
敵は次々と襲いかかってくる。
ジンも次々と相手を倒していくが、僕たちが無傷のまま進めるほど簡単な戦いではなかった。
「ミナト、右だ!」
「わかってる!」
僕は迫ってきた槍を避け、その隙にジンが相手を倒す。
二人で連携しながら、少しずつ道を切り開いていった。
やがて、敵の動きに変化が現れた。
「こ、こいつら……強すぎる!」
「聞いてた話と違うぞ!」
仲間が次々と倒され、残った男たちの表情に恐怖が浮かんでいく。
そして、ついに何人かが武器を捨てて逃げ出した。
それをきっかけに、残りの男たちも次々とその場から離れていった。
「なんだよ。もっと戦いたかったのによー」
ジンは物足りなさそうに剣を肩に担いだ。
「まぁまぁ。先を急ごう」
「へいへい」
僕たちは倒した敵の様子を確認しながら、その場を後にした。
大勢の敵を相手にしたせいで、思った以上に時間を使ってしまった。
早く黒石鉄のもとへ向かわなければ。
そう思っていたとき、無線機からシオンの声が聞こえてきた。
「二人とも、聞こえる?」
「あ、シオン! 映像、直ったの?」
「うん、もうばっちり!」
「よかった。こっちは今、敵を突破したところだよ」
「監視映像は一部しか復旧してないけど、二人の位置は確認できてるわ。気をつけてね。ここから先は、何があるかわからないから」
「了解!」
シオンのサポートも戻った。
これなら、少しは安心できる。
そうしてしばらく進むと、目の前に大きな鉄の扉が現れた。
「この先に、あいつがいるわ」
無線機越しに、シオンが告げた。
「了解」
僕は扉を見上げた。
ここまで来るのに、ずいぶんと時間がかかった。
でも、ようやく目的地にたどり着いたのだ。
「まぁ、負けないと思うけど、気をつけてね」
「わかってるよ。ありがとう、シオン」
僕たちは無線を切り、扉の前に立った。
ジンが僕に目配せする。
僕は小さくうなずき、二人で重い鉄の扉を押し開けた。
ギィィ……。
鈍い音を立てながら、扉が開いていく。
その先には、広々とした部屋があった。
そして、部屋の奥。
一人の男が、椅子に腰かけていた。
「お前が黒石鉄か?」
僕が尋ねると、男はゆっくりと顔を上げた。
「そうだ。俺が黒石鉄。この椿タワーの支配者だ」
男の周囲には、剣や鎧、盾など、金属でできたものがずらりと並べられていた。
まるで、武器庫のようだ。
いや、ただの武器庫ではない。
その配置には、どこか違和感があった。
僕たちが部屋に足を踏み入れた瞬間――。
カタリ。
壁に飾られていた剣が、小さな音を立てた。
続いて、隣の剣も。
そして、床に置かれた金属製の盾までもが、わずかに揺れ始めた。
黒石鉄は椅子から立ち上がると、口元に笑みを浮かべた。
「ここまで来たことは褒めてやる」
鉄が片手を軽く上げる。
その動きに呼応するように、部屋中の金属が音を立て始めた。
「だが、ここから先は別だ」
僕は思わず息をのんだ。
……こいつ、今までの連中とは何かが違う。
「せいぜい楽しませてくれよ?」
黒石鉄の言葉と同時に、無数の金属が宙へと浮かび上がった。
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