歓迎される来訪者
今回の作戦における配置は、こうだ。
ジンと僕が椿タワーに向かい、黒石鉄と接触する。そして、シオンが事務所から監視カメラなどを通じて敵の動きを確認し、僕たちをサポートする。
作戦の要となるのは、シオンの情報収集能力と、僕たち二人の戦闘力だ。
椿タワーに向かって走っていると、無線機からシオンの声が聞こえてきた。
「ミナト、ジン、聞こえる?」
「あぁ、聞こえてるぜ、シオン」
「こっちも聞こえてるよ」
「聞こえてるならよかった。監視カメラで確認しているけど、今のところ異常はないわ。何か変わったことがあったら、すぐに連絡するから」
やはり、シオンは頼りになる。
「うん。よろしく頼むよ」
そんなやり取りをしているうちに、僕たちは目的地に到着した。
椿タワー。
黒石鉄が拠点としている場所だ。
「本当にここにいるのか? あいつ」
「シオンが調べてくれたんだ。間違いないよ」
「だといいけどな……」
ジンは少し疑わしそうな顔をしながら、目の前の建物を見上げた。
椿タワーは、いかにも普通の高層ビルといった外観だった。
裏四天王の一人が潜んでいる場所だとは、とても思えない。
僕たちはガラス張りの自動ドアをくぐり、建物の中へと足を踏み入れた。
中は白を基調とした清潔な空間だった。床には白い大理石が敷き詰められ、天井の照明がその表面を美しく照らしている。
「なんか普通だなー。裏四天王がいるとは思えねぇ」
ジンが周囲を見渡しながら、つまらなそうにつぶやいた。
確かに、見た目だけなら普通の企業が入っているビルと何も変わらない。
僕は周囲を見渡し、受付があることに気づいた。
とりあえず、あそこに聞いてみよう。
僕たちは受付へと歩いていった。
「すみません。僕たち、用事があって黒石鉄さんに会いたいんですけど……」
受付にいた女性は、僕たちの顔を一度見てから、にこやかに微笑んだ。
「黒石ですね。でしたら、あちらのエレベーターで最上階までお上がりください。おそらく、そこでお会いできると思いますよ」
あまりにもあっさりとした返答だった。
「ありがとうございます」
僕はお礼を言い、ジンと一緒にエレベーターへと向かった。
エレベーターに乗り込むと、ジンが小声で話しかけてきた。
「おい、ミナト。明らかに怪しいだろ、これ」
「それはわかってるんだけど、これくらいしか会う方法がないと思って」
「もっと何かあっただろ……」
「今さら言われても困るよ」
「はぁ……。本当に大丈夫なんだろうな」
そんな軽口を叩き合いながら、僕たちはエレベーターの到着を待った。
しかし、僕はまだ気づいていなかった。
受付の女性が、僕たちの姿を見送ったあと、笑顔を消したことに。
女性は周囲を確認すると、静かに電話を取り出した。
「黒石様。例の二人が到着しました」
電話の向こうから、低い男の声が返ってきた。
『そうか。報告ありがとう』
「いかがいたしましょうか?」
『決まっているだろう』
男は、どこか楽しそうに笑った。
『せっかく来てくれたんだ。歓迎してやらないとなぁ……』
電話が切れる。
女性は何事もなかったかのように受話器を戻し、再び受付の笑顔を浮かべた。
一方、その頃。
椿タワーの最上階では、大勢の男たちが武器を手にして待ち構えていた。
刀、槍、金属製の盾。
そのどれもが、普通の人間を相手にするには十分すぎるほどの装備だった。
そして、その部屋の奥。
一人の男が、窓の外に広がる街並みを眺めていた。
黒石鉄。
裏四天王の一人である。
「さて……どんな顔を見せてくれるかな?」
鉄が指先を軽く動かす。
すると、部屋の隅に置かれていた金属製の椅子が、音もなく床から浮かび上がった。
鉄はそれを一瞥すると、口元をわずかに緩めた。
「楽しみだなぁ……」
その頃、エレベーターの中では――。
僕たちは、これから待ち受ける危険など知る由もなかった。
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