孤高の虐殺者
「うまくいった! 次だ」
洞穴から飛び出した悠太はポーチの重みを確かめながら、さらなる目的地へと急いだ。
巣の殲滅という正解に辿り着いてからの悠太はまさにキラービーにとって孤高の虐殺者だった。
点在するキラービーの巣を『ウッルの目』の二十倍狙撃と『キューブ』のシェルターで次々と襲撃する。移動時間を含めても、一箇所の制圧にかかる時間は一時間にも満たない。その短時間で、多い時では一度に二十個ほどの魔石が手に入るのだ。これまで一匹ずつキューブで閉じ込め、魔素と時間を浪費していたのが馬鹿らしくなるほどの圧倒的な効率。
数日前まで「一週間分の稼ぎが吹き飛んだ」と嘆いていたのが嘘のように、悠太の懐はかつてないスピードで潤っていった。
しかし、現実はそれほど甘くなかった。
三日目。意気揚々と一番初めに襲撃した「S71029」の巣へと戻ってきた悠太は入り口で足を止めた。
洞窟の奥、天井からぶら下がる巨大な巣は、悠太が破壊した時の無残な姿のまま放置されていたのだ。羽音一つせず、戻ってきたはずの個体も拠点を失ってどこかへ去ってしまったのか、静まり返っている。
「リポップ(再出現)してないのか…」
念のため他の三箇所の巣も回ってみたが、結果は同じだった。
ダンチューブや攻略サイトに掲載されている判明済みのキラービーの巣は計四箇所。その全てを二日足らずで壊滅させてしまった悠太にとって、このフロアでの効率的な狩り場はあっという間に消滅してしまったのだ。
帰宅後、二つ並んだ冷凍パスタを啜りながら調べてみると、破壊されたキラービーの巣が機能を取り戻し、新たな個体が定着するまでには少なくとも一週間はかかるという。
「一週間待ちか……。そりゃそうだよな。あんな巨大な建造物が数日で元通りになるわけないか」
悠太は苦笑しながら、昨日アップロードした最後の巣の制圧動画のコメント欄を開いた。
動画は凄まじい勢いで再生されており、画面を埋め尽くすコメントのほとんどは、二十倍に跳ね上がった『ウッルの目』の異常な火力に対する驚愕の声だった。
『なんだこの威力! キラービー弾け飛んでんじゃん!!』
『一年目の火力じゃねーだろ、これ!もう歩く戦車だわw』
『一発でキラービー消滅とか見てて爽快すぎ! 最初からこれ使っとけよ』
そんな書き込みの中、コメントは次第に第七階層のフロアキーパーへと移っていった。
『これだけ物量戦に強いなら、第七階層のボスも余裕なんじゃない?』
『キラービーの群れを掃除できるなら、第七階層は余裕w』
第七階層のフロアキーパーは『キラークイーン』
キラービーたちの頂点に立つ女王蜂だが、探索者の間ではフロアキーパー最弱の一角として有名だった。
悠太はスマホでキラークイーンの攻略動画を検索した。
画面の中では、巨大な腹部を持った美しくも不気味な女王蜂が映し出されていた。その攻撃パターンは至ってシンプル。周囲に無数のキラービーを近衛兵として召喚し、自身は後方から毒液を飛ばす程度だ。
『女王蜂は呼ぶのが仕事だからな。兵隊を削りきればただのモブだよ』
『そうそう。呼ぶのが仕事』
『キラークイーン。名前はいかにも凶悪なのにねww。取り巻きがいなくなると、ただのサンドバッグで草』
『逆に倒すのが申し訳なくなってくるわ! 戦ったことないけど』
コメント欄の書き込み通り、動画内の攻略パーティーも召喚されたキラービーを広域魔法や連射の利く弓で仕留めた後は無抵抗に近い女王蜂をあっさりと討伐していた。
今の悠太には密集したキラービーを一網打尽にする『ウッルの目』がある。
そして、接近を許さない『キューブ』がある。
「取り巻きさえ封じ込めれば勝ち、か……。今の俺に一番向いてるフロアキーパーかもしれない」
パスタを完食し、悠太は力強くスマホを置いた。
「マウンテンタートルも余裕だったし、キラークイーンも何とかなりそうだな。巣が復活するのを待ちながら停滞しててもしょうがないし、とりあえず先に進むか」
目標を第七階層のフロアキーパー『キラークイーン』に定めた悠太。
フロアキーパーをソロで攻略したとなれば、動画の再生数もさらに跳ね上がるだろう。それ以上に、自分がどこまで通用するのか試してみたいという探索者としての本能が熱く昂っていた。
翌日、悠太は予備の解毒薬をポーチに詰め込み、決戦の地へと続く転送装置を起動した。




