配信コメント
アパートの自室に戻った悠太は重い体を引きずるようにして冷凍庫を開けた。今日の夕飯は冷凍パスタ。
パッケージには超大盛りと目立つように書かれているものの、今の悠太の空腹を満たすには一つでは到底足りない。明太子とペペロンチーノ、二つの袋を並べて電子レンジに放り込む。
交互に漂ってくるニンニクと磯の香りを嗅ぎながら、悠太はスマホで「KYチャンネル」の管理画面を開いた。
「おお、結構伸びてる〜」
嬉しいことに、登録者数も再生数も順調に右肩上がりを続けていた。昨日の自己紹介動画も、ただ情報を伝えるだけでなく、実際に罠を実演したのが功を奏したのか「解説がわかりやすい」「罠使い面白そう」となかなかの好評だった。
(第六階層は、まだあんなに余裕あったのになぁ……)
フォークでパスタを口に運びながら、悠太は改めて今日の戦いを振り返る。たった一段、階層が上がっただけで、獲物の危険度もこちらの消耗度も跳ね上がった。探索者という職業の過酷さを今さらながら痛感させられる。
今の戦い方はお世辞にも洗練されているとは言えないが、まずは勝てることが重要だ。
とりあえずキラービーを倒す術は見つけた。明日はこれを動画として残そう。悠太はそう心に決め、残りのパスタを一気に片付けた。
◇
翌日、悠太は再び第七階層の草原に立ち、ドローンを起動した。
「えー、こんにちは。KYです。……正直言いますと、今回の第七階層、めちゃくちゃ苦戦してます」
カメラに向かって、悠太は苦笑混じりに切り出した。前回の動画で見せたロンリータートルのスリーポイントシュートのような華麗な立ち回りはこの階層では不可能だ。
「昨日みたいなスマートな戦いにはなりませんが、これが今の精一杯です。罠使いの泥臭い試行錯誤だと思って、良かったら見ていってください」
前置きを終えると、すぐに索敵に入る。一匹のキラービーを見つけ、悠太は神経を研ぎ澄ませた。
戦闘スタイルはもちろん昨日と同じ。
キューブが成功するまで、壊されては作り、壊されては作りを繰り返す。
一匹目。
「あ、やっぱりダメか」
ガラス瓶に閉じ込められた蝿のように、キラービーはキューブの壁面にガンガンと高速で体当たりを続ける。キューブを破壊するたびに魔素が霧散し、結局、五回も構築を行い、ようやく一匹を仕留めた。
二匹目。
「たまには一回で成功してくれ」
そんな願いも虚しく、キラービーの一撃離脱に翻弄されながらも、四度目のキューブでなんとか駆除に成功。
昨日と同じく、三時間ほど戦い続けて狩れたのは六匹。魔素の枯渇と、常に死角から刺される恐怖に耐え抜くのは、昨日以上の疲労を悠太にもたらした。
しかし、連日キューブを作り続けたおかげでレベルが4になった。
同時設置数:3→4
設置時間:30秒→20秒
特殊効果:設置箇所変更
設置数増と設置時間減により個数不足のリスクは大きく軽減された。
特殊効果の『設置箇所変更』とはノーコスト、ノーロードでキューブを移動できるらしい。
今まで場所を変えたければキャンセルして設置し直すしかなかったので、手間と時間が軽減され使い勝手は良くなりそうだ。
(でも、誘導すればいいだけだから、今のところあまり使い道ないか…)
◇
帰宅後、悠太は泥のように疲れた体でドローンの編集画面を立ち上げた。
「今日の六匹の中で、一番まともに撮れてるのは三匹目か。冒頭の前置きと三匹目の戦いを中心に編集してくれ」
ドローンに指示を出し、悠太は一息ついて昨日投稿した「自己紹介動画」に寄せられたコメント欄を改めて眺めた。
『最大魔素量が一年で三千弱っていうのは、まぁ平均的だね』
『静岡ダンジョンってキラービーが出るんだ。刺されたら即死級の猛毒だって聞くし、解毒薬とか魔法はあるのかな?』
『北海道ダンジョンではキラービーって出ないんだけど、ダンジョンも気候とか関係あるんかね?』
『自己紹介助かる。KYさんの声、落ち着いてて聞きやすいです』
好意的な反応や、罠使いという特異なクラスに対する純粋な興味がコメント欄を埋めていた。中には次の『キラービーをどうやって罠に嵌めるのか楽しみ』という期待の声もあり、悠太は少し背筋が伸びる思いがした。
「華麗じゃなくても、生き残って勝つ姿を見せるしかないな」
三匹目の戦闘シーン――ドローンの編集画面にはキューブを三度壊され、四度目でキラービーが光に還る映像と、その奥で膝を突き、肩で息をする仮面をつけた悠太を克明に映し出していた。




