配信コメント
悠太が当初掲げていた目標は無理のない範囲での毎日配信だった。
本来、探索者兼配信者という生活は想像以上の重労働。駆け出しの配信者であれば、数人でチームを組み、一人が戦っている間にもう一人がカメラを回す。探索が終われば泥のように眠りたい体にむち打ち、翌日の投稿に間に合わせるために数時間の編集作業に追われるのが当たり前の世界だった。
しかし、悠太の場合は違った。
瀬戸から貸し出された数百万クラスの高機能ドローンは、撮影のみならず、学習機能による自動編集までこなしてくれる。魔素の動きや敵の反応を察知し、盛り上がる場面を抽出して繋ぎ合わせるその性能は、まさに、空飛ぶ編集者だった。
(本当に、瀬戸さんには頭が上がらないなぁ)
もし安い機材を使っていたら、今ごろ悠太も編集ソフトの前で白目を剥いて、配信活動を断念していただろう。
ただ、そんな手間がかからない環境に感謝しつつも、悠太は一つ、冷静な判断を下していた。
ドローンが行ってくれるのはあくまでカット編集。不要な部分を切り、見どころを繋ぐ。テロップを差し込んだり、派手な効果音やBGMをつけたりといった凝った演出まではしてくれない。毎日同じような草原で、同じような亀を罠に嵌めるだけの動画を垂れ流しても、視聴者はすぐに飽きてしまうと感じていた。
「毎日投稿にこだわるのはやめよう。何かしら変化があった時、本当に見せたいシーンが撮れた時だけ投稿することにするか」
質より量ではなく、確かな足跡を残すスタイル。そう決めて眠りにつこうとした悠太だったが、ふと思い立ってスマートフォンの管理画面を開き、驚愕した。
昨日のマウンテンタートル戦の動画再生数が、一晩で千回を超えていたのだ。
さらに、一桁から始まったチャンネル登録者数も九十人を突破し、大台である百人まであと一歩のところまで迫っている。
「……マジか。1000回?」
何かのバグかと思い、悠太は何度も画面をリロードした。しかし、数字は確かに間違いなかった。
これまで、どれだけ工夫しても見向きもされなかった動画がマウンテンタートルという映え要素によって誰かの目に留まったのだ。
さらに驚いたのはコメント欄の数だった。
昨日のライブ配信の最後に「お疲れ様でした」と書き込んでくれたあの一人だけでなく、アーカイブ化された動画には新しい書き込みがいくつも連なっていた。
『この配信者って特殊系スキルだっけ?』
『罠を作るって言ってたな。釣りだと思ってスルーしてたわ』
『罠使いなんてユニークスキルあったんだね。結構面白そうじゃん』
悠太の罠という珍しい戦闘スタイルに興味を示すコメントが目立つ。物理攻撃や派手な魔法が主流の探索者界隈において、悠太のような戦い方は新鮮に映ったらしい。
そんな中、感想のみならず罠スキルに対する具体的な質問も届いていた。
『罠スキルって、どんな種類があるんですか?』
『あの大きな四角いのかなり魔素消費しそうだね』
『最後マウンテンタートルに穴が空いて溶岩垂れ流してたけど、あれはなに?』
「スキルの種類に魔素量か」
確かに、罠使いに限らず魔素量は探索者の実力を知るうえで重要な指標。今の自分は、ほとんどのステータスを罠スキルのために捧げている。
「そういえば、こんなに見てくれると思ってなかったし、最初からずっとドローンに任せっきりで自己紹介もまだだったなぁ」
(次の動画で少しだけ自分のことについて触れてみるか)
画面越しに繋がった百人近い誰かの顔を想像しながら、悠太はスマートフォンを置いた。
かつては孤独だったダンジョン探索。
しかし、今は興味を持ってくれる誰かがいる。その不思議な満足感と、部屋の隅に置かれ月明かりに輝く相棒をぼーっと見つめながら、悠太はいつになく穏やかな眠りについた。
明日からの探索が、昨日までとは少し違った景色に見える予感がしていた。




