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ハズレスキル『罠』しか持たない俺、最強の罠使いになる  作者: シマリス


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第二階層

覚醒者達は、午後のチャイムを待たずして探索者高校を後にする。


英語、数学、探索者概論――。それら必要最低限の授業が終われば、覚醒した生徒には実戦という名の自由が与えられていた。学校側も覚醒者の育成を最優先としており、ダンジョン内での活動記録が管理センターから共有されれば、それは出席としてカウントされる。


悠太にとって、それは願ってもない制度だった。嘲笑に満ちた教室に居続ける理由など、一秒たりともない。


放課後、悠太は真っ直ぐに東京駅地下へと向かった。


第一階層での『作業』は、もはやルーチンワークと化していた。スライムの動きは鈍く、一度パターンを掴めば罠の設置に迷うことはない。


落とし穴に擬態効果がついたことで、誘導の手間すら省け、討伐速度は飛躍的に向上した。


「敵を探す時間のほうが長くなっちゃったよ」


三時間歩き回って、出会えたスライムはわずか五匹。一粒五百円の魔石を必死に集めるのも悪くないが、このペースでは妹の進学費用や母の生活を劇的に変えるには程遠い。


悠太は意を決して、ダンジョン入り口の受付へと戻った。


「あの、第二階層に行きたいんですが。階段を探すのが大変で」


受付の女性は驚いたように悠太を見た。


「第二階層ですか? 甘露寺さんは覚醒してまだ六日目ですよね。あそこは『牙ネズミ』といって、スライムとは比較にならないほど機動力のある魔物が出るんですよ?」


「きっと、大丈夫!……だと思います。無理だと感じたら、すぐ戻りますから」


悠太の真っ直ぐな瞳に押されたのか、女性は「わかりました」と頷き、カウンターの横にある魔法陣のような装置を指差した。


「通常、下の階層へは自力で下りるものですが、安全確保のために一度到達した階層、あるいは管理センターが許可した階層まではこの『転移装置』で送ることができます。第二階層であれば単独でも皆さんに許可しているので良いですよ。利用料は千円ですが、よろしいですか?」


「はい!」


悠太は迷わず千円札を差し出した。


装置の上に立つと、足元から柔らかな光が溢れ出し、一瞬の浮遊感が全身を包む。


目を開けると、そこは第一階層よりも天井が一段と高く、そして何より獣の臭いが立ち込める空間だった。


「ここが、第二階層」


第一階層が湿った地下通路なら、第二階層は廃墟となった地下街のようだった。崩れた看板や、ひっくり返ったベンチが散乱している。


悠太はステータスボードを確認した。ダンジョン内に入ったことで、青白い文字が空中に浮かぶ。


【名前:甘露寺悠太】

【魔素量:100 / 145】

【固有スキル:罠〈トラップメイキング〉 落とし穴 Lv.2 / バネ床 Lv.2】


「まずは、相手を知ることからだ」


悠太は物陰に身を潜め、気配を殺す。


罠使いにとって、無闇な突進は死を意味する。獲物がどう動き、何を好み、どんな速度で走るのか。それを見極めなければ、設置した罠はただの無駄遣いに終わる。


しばらくすると、瓦礫の向こうから「キリキリッ」という硬い音が聞こえてきた。


現れたのは、中型犬ほどの大きさがある巨大なネズミだ。その名の通り、口元からはナイフのように鋭く伸びた長い二本の牙が突き出ている。


(あれが牙ネズミ……速いな)


ネズミは鼻をヒクつかせながら、時速数十キロはあろうかという速度で瓦礫の間を縫うように走っている。スライムのような単調な跳ね方ではない。不規則で、機敏で、そして何より攻撃的だ。


ネズミは地面に落ちていた腐敗した木片を、その牙で一瞬のうちに噛み砕く。


もしあの牙が人間の脚を捉えれば、骨ごと持っていかれるだろう。大輝が自分の剣術なら一撃だと言っていたが、それは当たればの話。あの速度を捉えるには、相当な技量が必要になるはずだ。


悠太は、牙ネズミが走り去った後の地面を凝視した。


そこに浮かび上がるのは、いつものグリッド線。


(直線的な動きには強いけど、急な方向転換にはラグがある。それに、獲物を追う時は一点しか見ていない)


不安はある。心臓はさっきから早鐘を打っていた。


だが、悠太は震える手で地面に触れる。


「……俺の罠が、あの速度に通用するかどうか、まずは様子見だ」


魔素を練り、四十五秒。


悠太は牙ネズミの通り道を見定め、静かに、そして深く、最初の設計図を描き始めた。


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