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ハズレスキル『罠』しか持たない俺、最強の罠使いになる  作者: シマリス


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8/11

如月凛

二日目の探索は昨日とは比べものにならないほど充実したものとなった。


休日ということもあり、ダンジョンの滞在時間を延ばした結果、手元に残った魔石は十五個。換金所で七千五百円を受け取り、悠太は心地よい疲労感とともに家へと向かう。


アパートに着いた頃には既に日付が変わろうとしていた。


鍵を開けて静かに入ると、居間の明かりは消え、母と結衣の規則正しい寝息が聞こえてくる。


テーブルの上にはラップがかけられたハンバーグと一枚のメモ。


『悠太へ。遅くまでお疲れ様。ご飯温めて食べてね。今日も無事でよかったです。 お母さんと結衣より』


「……ただいま」


小さく呟き、冷めたハンバーグを口に運ぶ。


昨日よりも確実に増えた懐の重みが、今は何よりのスパイスだった。



翌日の月曜日。


学校の教室は週末に行われた覚醒検査の話題でもちきりだった。


悠太が教室の扉を開けた瞬間、心ない声が飛んでくる。


「あ、来たぞ! 『トラップ職人』甘露寺悠太くんだ!」


「よお、悠太! 今日から教室の入り口に落とし穴でも掘るのか? あ、外じゃスキル使えないんだっけ。残念だったな!」


無遠慮な嘲笑が飛び交う。悠太はそれを受け流し、自分の席にカバンを置いた。


ダンジョン外でステータスボードは表示されない。自分がどれだけ成長したか、魔素がどれほど増えたか、今の悠太には確認する術はない。ただ、体に馴染んだ魔素の感覚だけが、昨日の成果を肯定していた。


そんな喧騒の中心にいたのは、やはり松坂大輝だった。


「――でさ、結局第二階層の『牙ネズミ』も、俺の剣術なら一撃なわけよ」


大輝の周りにはすでにパーティーとして結束した三人の男女がいた。


『氷結の魔女』佐々木。『徒手真拳』の剛田。そして、学年一の美女として知られる『空間の魔術師』如月凛だ。


大輝以外の三人は先月すでに覚醒を済ませた経験者。大輝は三人のパーティーに便乗する形で、第一階層をすっ飛ばして第二階層から探索を開始。昨日は覚醒二日目にして、すでに第三階層へと足を踏み入れたという。


「まあ、普通は第一階層のスライム相手に泥んこ遊びから始めるもんだけどな。俺にはこの『剣術』と、最高の仲間がいるから。悪いな悠太、お前がスライムと格闘してる間に、俺たちはもう『高給取り』の仲間入りだわ」


大輝が肩をすくめると、剛田がガハガハと笑った。


「大輝、そりゃ言い過ぎだろ? いくら甘露寺のスキルが魔物に怯えながら岩陰に隠れて使うボッチスキルだからって」


周囲が再び爆笑に包まれる。


だが、その輪の中にいた如月凛だけは笑っていなかった。


彼女は物静かで、誰に対しても柔和な微笑みを絶やさない。そんな彼女が大輝の制止を振り切るように椅子を立ち、悠太の席まで歩み寄ってきた。


「甘露寺くん。おはよう」


教室内がしんと静まり返る。凛は困ったように眉を下げ、優しい笑顔を悠太に向けた。


「あの、大輝くんたちがごめんなさい。あまり気にしないでね」


「……別に、慣れてるから」


「そう? でも……私、少し驚いちゃった」


凛は悠太の隣の席にそっと手を置くと、内緒話をするように少しだけ身を乗り出した。彼女から清涼感のある香りがふわりと漂う。


「昨日、ダンジョンの出口で甘露寺くんを見かけたの。 あの時の雰囲気が前よりもずっと……なんて言えばいいのかな。すごく落ち着いて見えたから」


悠太の心臓がわずかに跳ねた。


ステータスは見えないはずだ。だが、空間系の希少スキルを持つ彼女には何かを感じる目があるのかもしれない。


「……気のせいじゃないかな。スライム相手に疲れ切ってただけだよ」


「そうかもしれないけど。でも、あなたのスキル……私は、そんなに悪いものだとは思わない」


凛の瞳には嘲笑も同情もなかった。ただ、柔らかな陽光のような純粋な関心だけがそこにあった。


「凛! 早く行こうぜ、講習が始まるぞ!」


大輝が焦ったように彼女を呼ぶ。凛は「うん、今行く」と優しく応じると、最後にもう一度だけ悠太を振り返った。


「甘露寺くん。もし、いつかあなたがその気になったら……あなたの戦い方、私に見せてくれないかな?」


彼女は、そう言い残し大輝たちとともに去っていった。


華やかで自信に満ちた、選ばれし者たちの背中。


悠太は、自分の机の傷をそっとなぞった。


ステータスボードは見えない。けれど、昨日の感触が指先に残っている。


(……見せられるような戦い方じゃない。泥臭くて、陰湿で、ただ魔物を穴に落とすだけだ)


それでも、悠太の心には、先ほどまでとは違う静かな熱が灯っていた。


大輝たちが誇るスピード攻略。それとは正反対の一歩ずつ確実に獲物を仕留めていく自分だけの道。


悠太は静かにチャイムを待ちながら、放課後に向かうべき、あの暗い地下通路の設計図を脳内で描き始めていた。

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