弱体化スキル
『ウッルの目』を起動してからの二分間。悠太はマウンテンタートルの激しい猛攻を軽やかな身のこなしで捌きながら、その巨躯の動きを克明に観察していた。
地響きを立てて突進してくる巨亀。本来ならその質量だけで周囲の地面ごと圧砕されるはずだが、悠太は無駄のない動きで死線を潜り抜ける。この二分間は悠太にとって狙撃準備の時間であり、同時に新スキルの効果を確かめるための時間でもあった。
悠太は走りながら、自分のスキル構成について思考を巡らせる。
この世界のスキルツリーには、ある不便な制約がある。スキルを取得した後は詳細な説明文を見ることができるのだが、取得前は『スキル名』しか表示されないのだ。
ステータス上昇のような単純なものなら名前で察しがつくし、大抵のメジャーなスキルであれば先人たちが検証した情報がネット上に溢れている。
しかし、超希少な「罠使い」に関してはその限りではない。
取得ポイントが多いからといって必ずしも使い勝手が良いわけではなく、中には用途不明なハズレスキルも混ざっているだろう。
最初はわけもわからず、ポイントが高いものを選べば強いはずという漠然とした期待だけで取得していた悠太だったが、これからはそういうわけにもいかないと考えていた。
「分からないなりにも、取得するスキルはよく吟味して覚えないと……スキルポイントは有限。佐藤さんの言ってた通りだ」
罠スキルは、名前にその罠の特徴が現れていることが多い。ウッルの目は北欧神話の狩猟・狙撃の神『ウッル』の名を冠していることを調べていれば、それが遠距離からの狙撃に関わるスキルだと予想できた。
キューブに関してもその名から檻に閉じ込めるような罠スキルであることは想像できる。
だからこそ、悠太は新スキルを取得する前、必ずその名称の由来や意味を徹底的に考えるようにしていた。
罠スキルの名称は、分かりやすい日本の伝統的な猟具の名から、英単語、効果を端的に表した日本語表記のものなど多種多様だ。
その中で悠太は今の自分に必要かつ効果が想像しやすいスキルを厳選して取得してきた。
そして、そのうちの一つが、今回このような状況があった時のために取得した『アンダーマイン』というスキルだった。
この言葉を端的に言えば、徐々に弱まる、蝕むといった意味になるらしい。
悠太は探索者の基本である筋力、魔力、物理防御、魔法防御といった全ての能力を控え、罠スキルに特化してきた。そんな彼が強敵と対峙するための唯一の方法は、自分を強くすることではなく「相手を弱らせること」にある。
この『アンダーマイン』という名の罠スキルには、まさにそのデバフ(弱体化)の効果があった。いくつもの罠を取得した中で最も切望していたスキルだ。
しかし、もちろん制限もある。
効果時間があり、対象は一体、一部位のみ。
発動方法は『スネア』や『バネ床』と似ているが、こちらはある程度の操作性が必要となる。
専門の支援系スキルほどの劇的な効果はないものの、一人で戦う悠太にとってはこれでも十分だった。
「――よし、準備完了」
『ウッルの目』の照準が、マウンテンタートルの巨躯を完璧に捉える。十倍に跳ね上げた出力により、空間そのものが微かに震え、不可視の狙撃が巨亀を襲う。
しかし、十倍の出力をもってしても、巨亀の分厚い装甲にはせいぜい小さな傷を付ける程度であった。
マウンテンタートルが再び突進の予備動作に入る。背中の噴火口から火の粉が舞い、その巨体が弾丸のように射出されようとした瞬間、悠太は静かにスキルを宣言した。
「アンダーマイン設置」
悠太の影から不気味な魔素が伸び、マウンテンタートルの脚元が妖しく光る。
「新しいスキルの効果を試すにはちょうどいい」
新スキルはロンリータートルで散々練習した結果、すでにレベル3まで上がっていた。
取得当初の『弱体効果(微)』は『弱体効果(中)』まで進化している。
『ウッルの目』の発動時間はまだ十分残されている。十倍出力の狙撃をものともしない強固な装甲がどれほど変化するのか、スキルの進化を悠太は嬉々とした表情で見守っていた。




