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ハズレスキル『罠』しか持たない俺、最強の罠使いになる  作者: シマリス


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再挑戦

悠太はまず静かな第一階層の隅で、新しく手に入れた『スネア』の感覚を確かめることにした。周囲には誰もおらず、スライムの跳ねる音と遠くで響く水滴の音だけが聞こえる。


「スキル発動!『スネア』」

【魔素消費:6】


足元に魔素で編まれた不可視のワイヤーが輪となって広がる。これまで使っていた『落とし穴』の初期消費魔素が10だったことを考えると軽い負担だ。

液体の塊で重量のあるスライムを地面ごと飲み込む穴に比べ、実体のある獲物の足を縛るだけのスネアは、より効率的に魔素を変換できるのかもしれない。


試しに、近くを跳ねていたスライムを誘導してみた。狙い通り、スライムが輪の中心を通過した瞬間にワイヤーが鋭く跳ね上がり、その半透明の体を締め上げる。


――ピチャッ!?


しかし、結果は芳しくなかった。


骨格のないスライムの体は、ワイヤーが食い込むたびに表面の粘液が削れるだけで、ツルリと隙間から抜け出してしまう。一部が削り取られて多少のダメージにはなっているものの、拘束という本来の目的は果たせていない。


「やっぱり、これは実体のある獲物向きなのかな」


スネアの真価は骨格と重力を持つ獣を吊るし上げてこそ発揮される。第一階層での練習を終え、悠太はその足で新宿のダンジョンショップへと向かった。



「いらっしゃい。防具をお探しで?」


店主の視線が悠太のボロボロになった制服に落ちる。プロの探索者たちが集うこの店で、泥にまみれた高校の制服はひどく浮いていたが、悠太は気にする余裕もなかった。


彼はカウンターにこの数日間で必死に貯めた二万円を置いた。それは、妹のノート代や最低限の食費を差し引いた、自分に残された全財産だ。


「一番安いやつでいいです。牙ネズミの攻撃を防げる装備をください」


店主は黙って棚の奥から硬質プラスチックと合成皮革を組み合わせた探索者用の中でも最も安価なプロテクターを取り出した。新品だが、プロが使うミスリル合金や高級な魔物の皮を加工した防具に比べれば、まるでおもちゃのような代物だ。


それでも、今の悠太にとっては命を預ける盾に他ならない。受け取った防具のまだ新しい化学繊維の匂いを嗅ぎながら、悠太は覚悟を新たにした。


その夜、悠太は新調した防具をテーブルに並べ、志保と結衣に向き合った。静まり返った居間に緊張した空気が流れる。


「……また、二階層に行ってくる」


志保が何かを言おうと口を開くより早く、悠太は自分の腕に小手を当てて見せた。


「今度は無茶はしない。新しいスキルも覚えたし、この防具も買った。昨日のような怪我は二度としない。だから信じてほしい」


「でも、お兄ちゃん……」


「結衣。俺、どうしても確かめたいんだ。自分のスキルがどこまで通用するのか。それに……このままずっと第一階層にいたら、母さんの内職だって一生終わらない。俺がこの家を支えられるようになりたいんだ」


悠太の言葉には、静かだが動かしがたい意志が宿っていた。単なる無謀な若者の功名心ではなく、一人の探索者として家族の未来を背負おうとする覚悟。それを、二人はその瞳から感じ取った。


長い沈黙のあと、志保が小さく溜息をつき悠太の胸当てにそっと手を添えた。


「……約束よ。もし少しでも危ないと思ったら、すぐに逃げて。魔石よりも、あなたが無事に帰ってくることの方がずっと大切なんだから」


「……わかってる。ありがとう」


翌朝、悠太は新しい防具を制服の上に仕込み、再び東京駅へと向かった。プロテクターの硬い感触が制服越しに皮膚へと伝わる。


(スネア、落とし穴、バネ床……この三つを組み合わせれば、絶対に仕留められる)


昨日までの敗北感は消えていた。


牙を剥く地下街、第二階層。そこはもはや、悠太にとっての恐怖の対象ではなく、家族の未来を勝ち取るための狩場へと変わりつつあった。


改札を抜け、ダンジョンへの入り口に立つ悠太の背中は、数日前よりも逞しく見えた。暗い階段の先を見据え、彼は静かに、しかし力強く足を踏み出した。

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