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ハズレスキル『罠』しか持たない俺、最強の罠使いになる  作者: シマリス


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バリアント

第三階層の攻略を始めてから、すでに数時間が経過していた。


薄暗い石造りの通路を進む四人の足取りには、それぞれの実力差が如実に表れ始めていた。


「左からリビングアーマー二体! 佐々木、牽制頼む!」


剛田が叫び、盾を構えて突進を抑え込む。

直後、佐々木が放った氷弾が鎧の隙間に着弾し、動きを鈍らせた。

そこへ大輝が斬り込み、鋭い一閃でトドメを刺す。一見すれば鮮やかな連携だったが、大輝の肩は激しく上下し、額からは滝のような汗が流れていた。


一方でパーティーの要である如月凛は、いまだ制服に埃一つ付けていない。彼女にとってこの階層の魔物は、もはや脅威ですらなかった。


彼女の『空間把握』は、敵の動きのみならず、周囲の魔素の密度さえも完全に捉えており、危機が訪れる前に芽を摘むことが可能だった。


「お疲れ様。みんな、連携がスムーズになってきたね」


凛の穏やかな声が響く。だが、その瞳はどこか遠くを見据えているようでもあった。

この三人――特に剛田と佐々木にとって、第三階層はすでに効率よく稼げる安定した狩場に変わっている。如月凛に至っては、格下の暇つぶしに近い感覚だろう。


そんな中、一行は通路の突き当たりに下へと続く重厚な石の階段を発見した。


「お!これ?……第四階層への入り口か」


大輝は吸い寄せられるように階段の縁に立つ。その瞳には焦燥と野心が混ざり合った複雑な光が宿っている。


「どうする? 少しだけ様子を見にいくか。今の俺たちの連携なら、一、二匹相手にするくらいなら問題ないだろ」


「大輝くん、流石にそれは。今日はもう魔素も残り少ないし」


佐々木が不安げに眉を寄せ、剛田を振り返る。剛田も腕を組み、慎重な面持ちで口を開いた。


「ああ。第四階層からは魔物の強さが別物だって聞くぜ。大輝、お前の限界も近いだろ。今日は一度引き上げて、体勢を整えるべきだ」


「俺のことは気にするな。危なくなったら如月のスキルですぐ戻ればいい。いつまでもここで足踏みしてても成長できねえよ」


大輝は強引に笑ってみせるが、その言葉に余裕はない。自分より一ヶ月早く覚醒した三人に追いつきたいという執念が、彼の判断を鈍らせていた。


三人は、大輝の言葉の端々に滲む危うさに顔を見合わせた。自信が過信に変わり、やがて取り返しのつかない破滅を招く――探索者の世界では珍しくない光景が、自分たちの仲間に重なろうとしていた。


その時だった。


「うぁぁ! 逃げろ!! 早く上に戻れ!!」


階段の奥、暗闇の底から複数の足音と、悲鳴に近い叫び声が響き渡った。


駆け上がってきたのは、血を流し、装備をボロボロにした探索者のパーティーだった。その一人は折れた剣を杖代わりに必死に体を支えている。


「何があったんですか!?」


剛田が思わず問いかけるが、探索者は大輝たちの横を突き抜けるように走り去りながら叫び返した。


「逃げろ! 下の階層で魔物が融合してやがる! 突然変異だ……ありゃ第六、いや第七階層クラスの『バリアント(変異種)』だぞ!!」


「融合……!?そ、 そんなことが……」


大輝の言葉を遮るように、探索者は絶望的な警告を叩きつける。


「あいつ、死体を喰いながら上がってきてる! 早く地上へ逃げて増援を呼ばねえと、この階層の連中は全員食われるぞ!!」


その言葉が終わるやいなや、階段の奥から、ズズッ、ズズッ、という重い肉塊を引きずり、コンクリートを削るような音が響いてきた。


同時に、鼻を突くような血生臭い腐臭と、肌を刺すような冷たい魔圧が通路を支配する。


「……みんな、下がって!」


凛の声に、かつてないほどの鋭い緊張が走る。


逃げようとした四人だったが、その足は重圧に縛り付けられたように動かなかった。


階段から這い上がってきたのは、人型を歪に引き伸ばし、膨れ上がらせたような巨大な影だった。


身長はゆうに三メートルを超え、全身は腐った肉のような赤黒い筋肉が、不規則に脈打っている。


そして、その巨大な右腕が掴んでいたのは――首を失い、無残な肉塊と化した探索者の死体だった。


魔物は、手にしていた死体を無造作に口へと放り込む。


バキバキ、という生々しい骨の砕ける音が、静寂の通路に響き渡った。


「……あ、あ……」


大輝の指先が激しく震え、愛剣がカランと乾いた音を立てて石畳に落ちた。


目の前にいるのは、彼が夢想した乗り越えるべき壁ではない。


理由も理屈もなく、ただそこに在るだけで命を刈り取っていく死そのものだった。


「如月……逃げ……っ」


大輝が声を絞り出そうとした瞬間、魔物の濁った複数の瞳が、獲物を定めるように四人を捉えた。


空間把握を持つ凛でさえ、その存在の「底知れなさ」に、人生で初めて敗北と死を予感していた。


平和だったはずの第三階層が、一瞬にして逃げ場のない屠殺場へと姿を変えた。

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