四人パーティー
東京駅地下ダンジョン、第三階層。
第一階層の湿り気や第二階層の埃っぽさとは異なり、ここは地下墳墓を思わせる冷たく重い空気に満ちていた。松坂大輝は、額に浮かぶ汗を手の甲で拭いながら、愛剣をゆっくりと鞘に収めた。
「悪い、剛田。さっきのフォロー、助かったわ」
「気にすんなって。あそこでの『一閃』、タイミングはバッチリだったぜ。ただ、ここのリビングアーマーは流石に少し硬すぎるよな」
ラグビー部出身で体術に優れた剛田が、大輝の肩をガシッと叩いて豪快に笑う。一ヶ月早く覚醒していた剛田と、その隣で氷魔法の残滓を霧散させている佐々木のカップルは、すでに魔素量が三百を超えている。
対する大輝は、覚醒から間もないこともあり魔素量は二百弱。数値だけを見れば、この第三階層に足を踏み入れるには本来なら少し早い。だが、大輝にはそれを補って余りある剣術のセンスがあった。
大口を叩いてこのパーティーにねじ込んでもらった大輝だが、この数日間の実戦を通じて、彼は単なる口だけではないことを剛田たちに証明していた。
「大輝くん、あんまり無理しちゃダメだよ? ちゃんと私が魔法で援護するから、魔素が切れそうになったらすぐに言ってね」
水泳部出身の佐々木が、透き通った声で大輝を気遣う。彼女の放つ水弾は、リビングアーマーの硬い装甲の隙間に正確に叩き込まれ、大輝の剣撃を何度もサポートしていた。
「サンキュ、佐々木。……けど、早くお前らのレベルに追いつかねえとな。いつまでも二人に守られてるわけにはいかねえし」
大輝は照れくさそうに笑いながら、自分のステータスを確認する。魔素の残量は半分を切っていた。連戦となれば、確かに三人の助けが必要になるだろう。
そんな和やかな空気の中、一人だけ汚れ一つない制服のまま、静かに歩みを進める人物がいた。
「そこまでにしましょう。敵の増援が来る前に一度安全圏へ移動したほうがいい」
如月凛。
彼女だけは、このパーティーの中でも頭一つ抜けた存在だった。
彼女の魔素量はすでに四百を超え、その希少な『空間認知』スキルによって、迷宮の構造や敵の位置を完全に掌握している。彼女が指揮を執ることで、このパーティーは格上の階層であっても致命的な危機に陥ることなく、効率的に攻略を進めることができていた。
「如月、お疲れ。やっぱり、お前の索敵があると安心感が違うな」
大輝が声をかけると凛は足を止め、穏やかな、しかしどこか見透かすような瞳で大輝を見つめた。
「お疲れ様、大輝くん。慣れない第三階層で、よく動けてるね。剛田くんたちとも、うまく連携できているみたいで安心したわ」
学年一の美女であり、実力も兼ね備えた彼女に認められることは大輝にとって何よりの自信になる。
「けど、正直まだお前たちに助けてもらってばかりだ。俺一人の力じゃ、まだここは……」
「それは一ヶ月の差があるから当然よ。焦らなくていい。でも、大輝くんの成長速度なら、すぐに私たちと肩を並べられるようになると思う。……ただ、少しだけ危うさがあるのが気になるかな」
「危うさ?」
大輝が首を傾げると、凛は至近距離で彼の瞳を覗き込んだ。
「ええ。あなたは自分の剣の威力に自信がある。それは良いことだけど、少しだけ『力押し』に頼りすぎている気がするの。……そういえば昨日、学校で甘露寺くんに声をかけたのを覚えている?」
「え、ああ……あの『罠使い』の? あんなゴミスキル、参考にもならないだろ」
大輝が苦笑まじりに言うと、凛は否定するように小さく首を振った。
「そうかな。私は彼からとても静かな『集中力』を感じたわ。自分の持っているカードが少ないことを理解して、それでも確実に獲物を仕留めるために何をすべきか、冷静に計算しているような……そんな目。大輝くんの剣に、あの静かな観察眼が加われば、もっと化けると思うの」
「……あいつに、観察眼ねぇ」
大輝は、昨日の教室での悠太の姿を思い出した。周囲に笑われても、ハズレスキルだと蔑まれても動じず、ただ一点を見据えていたあの目。
自分は選ばれた側だ。才能もある。けれど、実際に自分にとっては高難易度の階層に立ってみて、大輝も感じ始めていた。力だけでは届かない壁があることを。
「よし。分かったよ、如月。次は、お前のフォローが必要ないくらい完璧な一撃を見せてやる」
「期待してるね、大輝くん」
凛が柔らかく微笑む。
大輝は、仲間の温かい視線を背に受けながら、再び剣の柄を強く握りしめた。
今はまだ、三人の背中を追いかけている状態かもしれない。
けれど、この信頼できるパーティーなら、もっと上へ行ける。自分もこの場所に見合う男になれるはずだ。
大輝はステータス画面に表示される『魔素残量:60』という数字を睨みつけ、更なる高みを目指して、冷たい墳墓の奥へと歩を進めた。




