パリィクロス Lv2
翌日早朝
静岡ダンジョンの第八階層に再び降り立った甘露寺悠太は、昨日の『アンダーマイン』に引き続き、次なるスキルの底上げに着手していた。
ターゲットは、これまた習得してからレベル1のままの代理罠『パリィクロス』
このスキルは所有しているだけで敵の攻撃を一度だけ自動で受け流してくれる便利な防御罠だが、実戦であえて自ら攻撃を受けるわけもなく、なかなか経験値を稼ぐ機会がなかった。今回はレベル上げと割り切り、悠太はあえて少し危険な状況へと身を置く。
とはいえ、流浪人の一撃をまともに受けるのはリスクが高いので、悠太はアンダーマインも活用することにした。
「まずは足と腕をガチガチに固めてっと……よし、来なさい!」
三段加速を回避した直後、流浪人の脚と右腕にそれぞれ紫の光の輪を叩き込む。
踏み込みも剣速も大幅に低下し、まるでスローモーションのようになった流浪人の刃の前へ、悠太はあえて身体を晒した。
ギャインッ!!!
激しい金属音とともに、悠太の胸元から漆黒のロザリオが飛び出し、光の粒子となって砕け散る。それと同時に、流浪人の刀が見えない剣に弾かれたかのように大きく逸らされた。
「これで一回。……こんなんで本当にレベル上がるのかな?」
これまでの経験上、スキルをレベル1から2に上げる程度であれば、それほど膨大な時間はかからないことを悠太は知っている。
アンダーマインで安全を確保しながら、わざと攻撃を受けてパリィクロスを消費していく奇妙な戦闘。十個ほどのロザリオが身代わりとなって虚空で破壊されたその時、頭の中に待望のシステムアナウンスが響き渡った。
『【パリィクロス】の熟練度が一定値に達し、レベル2に上昇しました』
「お、きたきた! どれどれ……」
悠太は流浪人をサクッとデバフキューブのコンボで処理し、一息つきながらステータス画面を開いた。
スキル進化:パリィクロス Lv2
同時設置数: 4
特殊効果: 『正対反射』(NEW)
同時設置数、つまり所持できるロザリオが4つに増えたのは純粋にありがたい。これで一度の探索で耐えられるリスク回避の回数が増えた。
しかし、新しく追加された特殊効果『正対反射』という文字に悠太は首を傾げた。
「正対反射……? どういう意味だ?」
文字面だけでは効果がピンとこない。こういう時は実際に試してみるのが一番手っ取り早い解決策。
悠太は残り一つとなった手持ちのロザリオを握り締め、新たな流浪人の前に立った。
いつも通りアンダーマインで脚と腕の速度を奪い、わざと刀の軌道上に割り込む。
ガンッ!!!
再び硬質な音が響き、パリィクロスが発動する。悠太は弾かれた流浪人の刀の軌道を注意深く観察した。
これまでのレベル1のパリィクロスは攻撃を受け流す際、敵の武器を左右や上下といったランダムな方向へ逸らすだけだった。
しかし、この『正対反射』が追加されたことで流浪人の刀は悠太の正面(正対する方向)へと押し戻される形で綺麗に弾き返された。
壁に激突したかのように刀を力任せに押し戻された流浪人は、中心線を崩されてヨロヨロとたたらを踏む。
「うーん…まぁ、今までは体勢を崩す程度だったけど、相手との間合いは確かに大きくなるか…」
悠太はしばらく腕を組んで、よろめいている流浪人を観察してみたが、流浪人の反応はレベル1の時とそれほど大差がないようにも感じられた。
ランダムに逸らされるか、正面に弾き返されるか。相手がノックバックする分、時間的な余裕ができた感はある。
「まだレベル2だから、こんなもんだよな」
いろいろと思案しながら、パリィクロスも無くなったところでこれ以上の深追いはやめることにした。午前中の連戦と検証によって、悠太の魔素が尽きかけていたからだ。
「よし、午前の部終了!」
緊張の糸を解いた悠太は、一度地上へと帰還し、ダンジョン近くにあるいつものお気に入りのラーメン屋へと足を運んだ。
午前中の頑張りへのご褒美として、今日はチャーシュー、煮卵、海苔、メンマが贅沢に盛られたトッピング全部乗せの大盛りを注文。濃厚なスープと縮れ麺を夢中で啜り、大満足でスープまで完食した。
満腹の状態でアパートの自室へ帰宅すると、強烈な睡魔が悠太を襲う。
「ふぁ……。午後の部は、前から気になっていたあの武家屋敷の中に入ってみるか」
第八階層の街道沿いに立ち並ぶ、重厚な佇まいの武家屋敷。これまでは流浪人が飛び出してくるだけの背景だと思っていたが、調べたところによると、あの屋内にも入ることができるらしい。中はきっと障害物の多い狭い空間になるはずだ。
「あそこなら、見通しの悪い街道と違って、通路の直線を利用して『ウッルの目』が効果的に使えるかもしれない……」
第八階層のフロアキーパーである剣豪に対抗するためには、やはりこちらも最大火力の狙撃罠をどうにかして組み込む必要がある。
(『ウッルの目』のレベルも上がってくれれば…)
悠太はベッドの上で心地よい満腹感に包まれ、ウトウトと深い眠りに落ちていった。




