模範演技
「早速だが、君のスキルを見せてくれないかな?」
東郷にそう促された悠太は首を傾げて考え込む。
「見せるのは構わないんですけど……僕の罠スキルって、相手がいないと発動できない仕様なんです。それに、発動に必要な消費魔素量も、対象となる相手の実力によって大きく変動してしまいます」
そう言って、悠太は東郷と如月の二人を交互に見つめた。そして、頭の中で二人に罠の照準を合わせた瞬間、脳内に表示された要求魔素の数字を見て、悠太は思わず顔を引きつらせる。
「……やっぱりダメそうです。二人を相手にスキル発動しようとすると、魔素が足りなすぎて、一部しか構築できません」
(特に東郷さんだ。『バネ床』を発動するだけで消費魔素500、『スネア』は600。出力は通常状態の数値だから、発動したところでほとんど効果もないはず。なんて人だ……)
悠太は心の中で戦慄した。
目の前にいる東郷という男はそれだけの量を要求するほどの魔素を内在している化け物ということだ。さすがは元DATのレジェンド探索者である。
だが、そんな悠太の驚きをよそに、東郷は豪快に笑った。
「なるほど、相手の力量次第か。だが心配ないよ、甘露寺くん。ここはまさに、そのための施設だからね」
東郷がパチンと指を弾くと、競技場の床の一部がスライドし、金属音を響かせながらガシャガシャと巨大な機械がせり上がってきた。そこから、どろりとした銀色の液体が噴き出し、瞬く間に人型の形状へと収束していく。
「あっ」
「これは…」
悠太と如月の二人が同時に小さく声を上げる。
現れたのは、見覚えのある人型の輪郭。第五階層の進入試験の時に、悠太が罠でハメ倒したあの試験体ロボットだった。今回も再生素材である液体金属によって構成されており、傷ついてもすぐに修復する最新型のようだ。
「懐かしいだろう? 君たちが試験で戦ったものと同型のロボットだ。ただし、今回は君のスキル測定用に当時よりも耐久性や出力をかなり強化してある。これなら君の罠の対象として申し分ないはずだ。これを相手にスキルを披露してくれないか?」
悠太は改めて、目の前の液体金属ロボットに罠の照準を合わせてみた。
脳内に表示された消費魔素は『バネ床』が40。『落とし穴』でも400だった。
「これなら、いけそうです」
悠太は静かに息を吐き、戦闘態勢に入る。
まずは基本のセットから。
悠太が軽く手をかざすと、ロボットの進路上の地面に『バネ床』と『スネア』が不可視の状態で仕込まれていく。さらに、その背後の空間には『キューブ』を配置。
「じゃあ、動かすよ」
東郷が手元の端末のボタンを押すと、試験体ロボットの眼光が赤く点灯し、猛然と悠太に向かって突進を開始した。
だが、その一歩目が悠太の仕掛けた『バネ床』の座標を踏み抜く。
ドオォン、と強烈な反発力によってロボットの巨体が真上へと跳ね上がった。空中で姿勢を崩したロボットが着地したその瞬間、今度は足元に仕掛けられた『スネア』がバチンと音を立てて起動する。不可視のワイヤーが液体金属の脚に猛烈な勢いで巻き付き、その場に縫い付けた。
「ここまでは、動画でもよくお見せしている基本の罠です。そして……これが最近取得した新スキル」
悠太は罠の発動を確認し、冷静に解説を交える。
「アンダーマインです」
悠太の目の前に眩い紫の光の輪が出現し、悠太がコツンとつま先で押すと、ロボットの脚部を締め上げるように絡め取る。デバフの効果により、ロボットの敏捷性が低下し動きが目に見えてスローモーションになった。
「おぉ、これはタートル戦のやつだな!」
「さらに、もう一つの新スキルがこれです」
悠太はジャージの胸元から、黒く輝く小さな十字架――『パリィクロス』を取り出してみせた。
「これは所有していると、一度だけ敵の攻撃を受け流してくれる代理罠です。分かりやすいように、攻撃を受けますね」
悠太はあえて、スネアをキャンセルし腕を振りかざしたロボットの正面へと歩み出た。アンダーマインで鈍くなったとはいえ、強化されたロボットの重い一撃が悠太の顔面へと迫る。
如月が思わず「危ない!」と声を上げたが、悠太は微動だにしない。
ガンッ!!!と、激しい金属音が響き渡ると、ロボットの拳は悠太の肌に触れる直前で、まるで見えない盾に強打されたかのように大きく軌道を変えられた。
ロボットの体がグラリと傾き体勢を崩す。それと同時に、悠太の持つ十字架がサラサラと光の粒子になって消滅した。
「このように、一度だけ攻撃を安全に防ぐことができます」
よろけるロボットの背後で悠太があらかじめ設置しておいた『キューブ』が発動すると、透明な立方体の檻がロボットをすっぽりと包み込み隔離する。
「だいたいこんなところです」
悠太が手を下ろすと、一連の模範演武が終了した。
東郷は手元の機械を凝視しながら、感心したように何度も頷いている。隣の如月も「前に見た時よりも遥かに洗練されてる。あんな十字架まで…」と、その防御性能の高さに目を輝かせていた。
「素晴らしい。日々の鍛錬により性能を熟知しているからこその芸当だな。どれも見惚れてしまうほどだ」
東郷が惜しみない拍手を送りながら、悠太を見つめる。
「そんなに褒められるほどのことでは…」
悠太は照れながら俯き軽く頭を掻いた。




