ダン研幹部
如月の案内に従い、悠太はダン研の奥へと進んでいった。一般の探索者は立ち入ることすら許されない厳重なセキュリティで守られたエリア。
何枚もの重厚な金属製の扉をパスカードで通り抜け、複雑に入り組んだ通路を右へ左へと進む。
まるで秘密基地にでも迷い込んだかのような物々しさに、悠太は無意識のうちに肩を固くしていた。
最後に開かれた巨大な防壁の先で、悠太は思わず目を見張る。
「ひろっ。競技場みたいだね」
行き着いた先はバスケットコートが何面も丸ごと収まってしまうほどのドーム型の大空間だった。
床一面には衝撃を吸収する特殊な素材が敷き詰められ、天井には無数の観測用カメラと様々な測定器らしき機材が並んでいる。
その中央に、一人の男が立っていた。
四十代半ばほどに見える実に見事な体躯をした屈強な男性だ。仕立ての良いジャケットを着ているが、隠しきれない筋肉の塊と歴戦の猛者特有の鋭いオーラを放っている。
しかし二人が歩み寄ると、男は威圧的な雰囲気とは打って変わって、爽やかな笑顔で迎え入れてくれた。
「よく来てくれたね。私がこの施設の主席研究員を務めている、東郷だ」
ダン研幹部の一人であり、かつては日本のトップチームで活躍していたベテラン探索者。ダンジョン創世期から活躍するレジェンドであった。
「急にこんな物々しいところへ呼び出してしまって申し訳ない。だが、どうしても君に会いたかったんだよ、甘露寺悠太くん!」
「え?」
悠太はゴクリと喉を鳴らす。
自己紹介すらしていないのに東郷の口から自分のフルネームが滑らかに飛び出した。東郷は悠太の手をがっしりと握り、快活に笑った。
「不思議そうな顔をしているね。君のことは第五階層進入試験の時からずっと注目していたんだよ。あの試験ロボット四体を、まるでオモチャのように翻弄した見事な立ち回り、実に見応えがあった。……それに、最近は動画配信の方もかなり調子が良いようだね? 『KYチャンネル』あれも実に面白い!」
「ええっ?!」
(それもバレてるの? 変装してるんだけど)
悠太の顔から蒸気が噴き出す。
顔全体を覆うフルフェイスのマスクと全身を隠すローブで完璧に変装していたはずだった。
正体を隠して配信していたつもりが、国の最高機関の目は欺けなかった。自分の隠し事が全て透けて見えていたような猛烈な恥ずかしさに、悠太は思わずバツの悪そうな顔をする。
「あ、いや……あれは、まぁ、そのですね……」
「ははは、そう恥ずかしがることはないじゃないか。君のスキルについては前から知ってたんだ。気づいて当然だよ。あんなレアスキルを持っている探索者は君くらいしかいないからね。すぐに分かってしまうさ」
東郷が楽しげに語る横で、それまで静かだった如月が珍しく「なになに?」と興味を示した。
「KYチャンネル? 悠太くん、動画配信してるの? 全然知らなかった…」
いつもクールで隙のない如月が今は少し驚いた様子で目を輝かせている。スマートフォンの画面を覗き込むかのように、ぐいぐいと距離を詰めてくる如月に、悠太はさらにタジタジになる。
「それは後で説明するから……!」
悠太が視線を泳がせていると、東郷は一つ咳払いをし、真面目な表情に戻って話を元へ戻した。
「さて、本題に入ろう。甘露寺くん、今日こうして君に来てもらった理由だが……まあ、もうだいたい想像はついているだろう?」
東郷の言葉に、悠太は一瞬きょとんとした。
ダン研に自分と会いたがっている人がいるとは聞いていたが、ここに来た理由は久しぶりに如月から連絡があったから。それだけだった。
「あまりよく分かってないですが、もしかして僕のスキルを見せろ、とかですか?」
「その通り。察しがいいね」
東郷は満足そうに頷くが、悠太は不思議そうに首を傾げる。
「でも、僕のチャンネルを見ているなら、罠スキルがどんなものかも知っているんじゃないですか?」
あの中に自分の手札はほぼ全て晒してある。今さら直接見せる意味などあるのだろうか。
そんな疑問を見透かしたように、東郷は純粋な探求心に満ちた目を向けた。
「映像越しに見るのと、この目で直接、その魔素の揺らぎやスキルの本質を確かめるのとでは天と地ほどの差があるからね。私はね、データではなく『甘露寺悠太』という罠使いの可能性を直接この目で確かめてみたいんだ」
ベテラン探索者としての射抜くような眼光。その熱量に押されながらも、悠太の頭には昨日味わった第八階層の手詰まり感が過っていた。何か参考になることがあるかもしれない。
悠太はゆっくり深呼吸し腕を後ろに組むと、改めてトップ探索者の目をじっくりと見据えた。




