新スキル
一気に間合いを詰めてくる流浪人。
その動きは悠太の想像以上だった。
一歩、二歩、三歩と、足を踏み込むごとに不気味な黒い影がぐんぐんと加速していく。砂利を蹴る音すら置き去りにする圧倒的な突進力。
(避けきれない――!)
確実に回避が間に合うと後方にステップを踏んでいた間合いは一瞬で消失し、流浪人の漆黒の刃が悠太の胴体を正確に捉えた。
完全に不意を突かれた悠太の口から短い悲鳴が漏れる。
「ぐあぁっ!」
強烈な横薙ぎの一閃。
それは本来なら、生身の悠太の胴体を真っ二つに両断しているはずの一撃だった。
しかし、その刃が悠太の体に触れる瞬間、ギンッという甲高い金属音とともに、黒い刀はあらぬ方向へと弾き返された。流浪人の体勢が強引にこじ開けられたように崩れる。
そして、悠太の胸元で淡い光を放っていた黒い十字架がサラサラと砕け散った。
あのキラークイーン戦の後、アパートで悩んだ末にスキルポイント三百を消費して取得した新スキルだ。
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スキル名:パリィクロス
消費スキルポイント:300
消費魔素: 200
設置個数: 3
作成時間: 120秒
発動時間: なし
効果: 所有することで、一度だけ敵からの攻撃を自動でパリィしてくれる漆黒のロザリオ。発動後は消滅する。
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三つまで同時に所有でき、不要になればキャンセルも可能。
初めての探索になる第八階層を警戒し、あらかじめセットしておいた悠太の慎重さが文字通り命を救う形となった。
「あっぶねぇ! 取っといて良かった。噂以上の速さだな」
冷や汗を拭いながら、悠太はすでに次の行動へ移っていた。
パリィクロスで弾かれた流浪人は、一瞬だけ大きな隙を晒している。悠太はその足元へ、すでに別の罠を仕込み終えていた。
「『アンダーマイン』敏捷性低下!」
流浪人の足元から出現していた禍々しい紫光を放つ魔力の輪を掴み取り、斬られると同時に、その細い足首を締め上げるように放つ。
効果時間は120秒。
ギチッと流浪人の赤い眼光が困惑したように細くなった。
先ほどまでの残像を残すような神速はどこへやら、黒い影の動きは目に見えて鈍重になり、もつれるように刀を振り回すことしかできなくなっている。
「速度さえ落ちれば、俺のスピードでも十分対応できる」
ビーシューズの軽快なステップで、流浪人の大振りな斬撃を余裕を持ってかわす。
アンダーマインの効果が切れる前に仕留めきらなければならない。悠太は『キューブ』を四つ同時に設置し流浪人を誘導した。
「捕獲!」
敵の背後に回り込みながら、一つ、壊されたらまた一つと、キューブに誘導しながらステップを踏む。
そして、動きが衰えてきた流浪人に、三つ目のキューブが発動。
キン!
と空間が固定される乾いた音が響き、流浪人の黒い身体が半透明な立方体の中へと完全に閉じ込められる。
激しく檻を叩く影の侍だったが、数秒後にはキューブの縮小とともに、その身体もサラサラとした光の粒子へと変わって消滅した。床には拳大の魔石が一つ転がっている。
「はぁ、たった一体相手に、魔素を使いすぎだなぁ」
自分の魔素残量を確認し、悠太は小さくぼやいた。
パリィクロスに200、アンダーマインにキューブの連発。様子見のつもりで入ったものの、まともに戦っていてはいくら魔素があっても足りない。第八階層の厳しさを身を以て知ることになった。
「長居は無用だ。さっさと目的を済ませよう」
悠太はこれ以上の遭遇を避けるため、街道から少し外れた武家屋敷の影を縫うようにして、慎重に先へと進んだ。幸いにも、そこからしばらく歩いた開けた場所に目的の転送装置を発見することができた。
石造りの台座に埋め込まれた水晶にそっと手を触れる。
淡い青色の光が悠太の手を包み込み、脳内に『第八階層への転送経路が登録されました』と無機質なガイダンスが流れた。
「よし、今日はこれで終わりだ」
これ以上の深追いはせず、悠太はすぐに転送装置を起動して受付のロビーへと戻った。
夜の街へ出ると、心地よい夜風が火照った身体を冷ましていく。新スキルの手応えと第八階層の手強さ。明日からの本格的な攻略に向けて、悠太は数々の課題を頭の中で整理しながら、早めに我が家へと帰路に就くのだった。




