長い長い階段
長い長い階段を上がる5人。
ひぃ、ひぃ、と息を切らして。
ハナが膝に手をついて先を見上げる。
「待ってよ〜、黒川ちゃーん」
大きく距離を離して、サキはずんずんと先頭を上がっていく。
「あんたたちが遅いのよ」
「黒川ちゃんだって辛そうだよー!」
マフラーの口元を下げ、制服の裾で額の汗を拭う。
「無理しないでー!」
「うっさい!」
ハナの心配を更なる奮起に変えて、駆け上がる。
「も、もう無理⋯⋯」
そんなやりとりの大きく下で、ユカは手すりにもたれ掛かって喘いでいた。
「大丈夫か?」
ルカは涼しい様子でユカの顔を覗く。
「ルカはきつくねぇの?」
「走り込みは日課だからな」
「抜け駆けじゃん、せっこ」
「普段の出不精を恨め」
なんだと、と軽くいざこざ。
「まぁまぁ、みんな、あともう少しよ〜、ここが正念場!ファイト~!」
うぃんがしゃん、うぃんがしゃん、という駆動音とともにノアの声が横を通り過ぎていく。
四脚の小型クレーンロボット"たまちゃん"である。黄色と黒の警告線に彩られた四つ足はしっかりと悠々と階段を跨いでいく。ノアはたまちゃんの上ににこにこと腰掛けて紅茶を啜っていた。
ユカが乗せてってー!と叫ぶ。
「やっぱり騒がしいなぁ、みんな」
ハナが笑いながらユカたちに振り返る——。
階段の大きく向こう側、夕焼けが色濃さを増して、街の光が灯り始める。鬼たちの生命活動が昼を過ぎ、午後を過ぎても、なお勢いづいていく。
灯台は鬼ヶ島の存在を示して、漁船たちが明かりを頼りに港に帰ってくる。遠く横切る電車は疲れた鬼たちを乗せて帰路につく。ビルは彩りを増やして賑やかな喧騒を生む。住宅からは夕餉の香りが漂いだし、子供たちがただいまと帰宅を告げている。
思わず視線が吸い込まれる。
「綺麗⋯⋯」
営みが綺麗だった。
まるで島全体が生きているかのように輝いている。その一部になれていることを少しだけ誇らしく思う。
「ハナ〜置いてくぞ〜!」
と、たまちゃんに乗り込んだ3人が花の脇を昇っていく。
「あ、待ってよ〜」
ハナが追いかける。
カシャと音。
カメちゃんが花の肩越しに夕暮れに染まる街をフィルターに収めていた。ハナの視点に寄り添って、その一場面を切り取った。
対して頂上では。
着いた⋯、とぜいぜいと浅く肩を上下しながら、サキは膝に手を置く。
そこには公園があった。錆びついたシーソー。底が見える砂場。鎖千切れたブランコ。その奥には野ざらしになった社がひとつ。どこからどう見ても、誰からも忘れられて、寂れたまま手入れもなく、そんな時間が長く続いたような公園だった。
マフラーを口元から離しながら、ちらりと、背後を一瞥する。まだ、登っている4人。サキは鳥居を潜り抜け、少し進んだ程度だが、それでも4人とはだいぶ距離が空いている。
汗を拭い、パンと頬を叩く。
今は勝った。だけど、すぐに追いつかれるだろう。
「あんな、ふざけたやつらなんかに、負けられない⋯⋯」
ギターケースのベルトをかけ直す。
でも、と辛そうに吐き捨てて。
「喉乾いた⋯⋯」
水⋯、と廃れた公園を見回す。水飲み場が目についた。そこを目指して、足早に進む。
口を空けて待ち受けながら、蛇口を捻る。だいぶ固い。力込めてなお捻る。回った。
「とうちゃ〜く!」とハナの明るい笑顔が遠くに見える。4人と一機がぞろぞろと公園に入ってくる。
水が出ない。
雫の一滴も出てくる気配はない。
代わりに汗が垂れ落ちる。喉奥がひりつく。
これだけ寂れた公園なのだ。だが、期待してなかったとは嘘になる。
オアシスが蜃気楼だったみたいな感覚にサキは毒づいた。
「何よ⋯⋯」
駄目だ、少しふらついてきた。
「喉渇いた⋯⋯」
そんな言葉に応えるものはない。
そればかりか――背後から気配。
サキは咄嗟に跳び退く。
無数の缶が飛んできて、水飲み場を破壊する。破壊音と土埃が上がる。飛び散った瓦礫のいくつかがサキの身体を浅く傷つける。
「な、なんだぁ!?」
「黒川ちゃん!」
皆が駆け寄る。
木陰より姿を現した、怪異オバケ自販機。
3つの自販機が縺れたコードで組み合わさった巨体。黄金色の半透明な四脚はまるで獣のように太くたくましい。身体のあちらこちらからこれまた黄金色の大棘をいくつか生やしていた。
これがツクモガミ――。




