7777
サキの心臓がひとつ跳ねた。
感じたことがある、この怖気。
ひしひしと滲み、伝わってくる夥しい鬼力。
「なんだコイツ!?」
唖然とするサキの一方でユカが驚く間もなく、ぴろりぴろり、と押しボタンが点滅し、ルーレットのように回る。金額を示す。
数字が「7777」に揃う。
そして、当たりを祝う電子音。
取り出し口を大きく開いて、轟々と、大量の缶を吐き出した。
色とりどりの鉄の円筒が一つの波塊となってきたる。その速度は凄まじく、触れた大地を抉り取るほどであった。
しかし、ツクモ狩り部の反応も早かった。
ルカが先頭に立つ。
竹刀取り出し、鬼力を込めた。瞬時に青く光り輝く。延長され、増大し、光の刃となってそこに成った。
光刃の連撃を以て叩き伏せる。缶はいとも簡単に切り抜けられ、内部の液体を撒き散らした。
ノアもまた普段のおっとり感からは想像もできないほど素早い動きでスナイパーライフル――否、モデルガンを取り出した。鬼力込めたBB弾をすかさず装填し、ルカが切り残した缶缶を撃ち落としていく。
それでもいくつかの缶がふたりの防衛陣を抜けて後方に向かいつつあった。
「ユカちゃん!」
「合点!」
ノアの呼びかけにユカがサキたちの前に躍り出る。
トンファーを取り出す。眼前で猛烈に回転させ、盾のように猛攻を防いだ。
戦う3人の背後で、飛び散る液体から庇うようにハナがサキをひしっと抱き寄せる。
ユカが背後に叫ぶ。
「ハナ!動けるか!?」
呆気にとられているサキをよそに、ハナはうん!と力強く頷く。彼女はいつの間にかサキの傷の具合を確かめ、応急処置を施していた。
「よし!新入部員は任せるぞ!」
無事を確認したユカは、缶の津波が一時切れた隙を突いて一気に走り出した。
ルカとノア、ユカがオバケ自販機に立ち向かっていく。
オバケ自販機が口のない身体で轟々と音立てる。半透明の四肢を獣のように地に突き刺すと、跳躍し、巨体に似合わぬ俊敏さでルカの一太刀を避けた。
「こいつ早いぞ!」
ルカの驚きの隙を埋めるように、ユカが前に出る。
「感心してる場合か!」
自販機の横っ面を、力いっぱい蹴りつける。
「トンファーキック!!」
衝撃音。
だが、体勢崩すことは叶わず。
「まじか!」
ピロピロと押しボタンを点滅させた怪物が、剛腕を振りかぶった。
そこへ光弾が突き刺さる。大きくよろめくオバケ自販機。
「サンキュ!ノア!」
「気をつけて〜」
3人は連携を乱さない。
遠くの一進一退を見つめながら、ハナは勢いよく立ち上がり、サキの肩を担ごうとする。
「行こう!黒川ちゃん!」
サキは我に帰る。花の手を振りほどいた。
「離して!――っ!?」
がく、と倒れ込む。脚が痛む。喉がひりつく。冷や汗がどっと滝落ちる。気付かぬ内に巻かれた包帯に血が滲んでいる。痛い。
「無理しちゃだめ」
静かに、否定を打ち消すようにハナは言い放った。無理矢理にサキの身体を引いて、戦線から遠ざかる。
傷の痛みからサキは抵抗することなく従った。
他の3人はオバケ自販機に立ち向かっていく。
「こんなの、どうってことない」
ハナから顔を背ける。痛さよりも、悔しかった。顔が紅潮していくのがわかる。目頭が熱くなる。
ハナは何も言わず、そっと、傷口にハンカチを重ねて巻いた。
「大丈夫じゃないよ、この傷はきちんと手当てしないと跡が残っちゃう。黒川ちゃん、綺麗な足なんだから」
「やめてよ⋯なんなのよ、あんた」
サキがきっと睨む。
ハナは臆せず、サキを必死になだめる。
「傷口がすっかり治って、みんなで美味しいもの食べたら、きっと痛みも忘れるよ」
――痛みも忘れる?
そんな言葉に思わず、ふざけないで、と口から零れた。
サキの指先が微かに震える。
「痛みなんて、忘れられるわけないじゃない」
消え入りそうに呟く。
痛みは忘れてはいけない。忘れてしまったら、私は何処にも存在できなくなるから――。
「これは、応急処置だから」
ハナは丁寧に結び目をつくると、ぽんと肩に手を置いた。
「帰ったら、アルコールで消毒しないとね」
――アルコール。
その言葉に、オバケ自販機が反応する。
ボタンが点滅を繰り返す。
7777。当たり。
無数の缶を吐き出す。ハナに向かって。
「ハナ!!」
ルカたちの反応が遅れた。
まずい。
缶の津波が迫る。避けられない。




