十文字
瞬時。
サキが立ち上がった。ギターケースを地面に叩きつける。思い切り蓋を、蹴り、開ける。中から二振りの刀が宙に浮く。その柄を掴む。
十文字。
その二太刀で迫りくる缶の縦列が、別たれる。二人のすぐ横の地面に叩きつけられる。
撒き散らされる黄金色の液体と白い泡。
世界の輪郭はぼやけ、鉄と木がぶつかり合う音は遠くに滲んでいく。いまは静寂だけが二人の間を包み込んでいた。
その口火を切ったのはサキだった。
「勘違い、しないでよね」
振り向く。厳しく、しかし、照れたような表情。
「あんたのためじゃないんだから」
惚けたハナ。一言。
「かっこいい」
はぁ?、とサキが呆れて聞き返す。
ここで世界の時が戻る。
「あんた頭打ったんじゃない?」
「ううん!どこも怪我はないよ、心配ありがとう!!」
「そうじゃなくて……」
うんざりするように頭を抱えるサキに対し、ハナがはっと気づく。周囲に漂うアルコールの匂い。オバケ自販機が吐き出したのはビールの缶。
アルコール。
「私、わかったよ!」
「な、何よ、急に」
「黒川ちゃんが襲われた時、何か言ってたでしょ?」
「喉乾いたって⋯⋯」
「やっぱり!」
ハナは駆け出した。大声で前線の3人に呼び掛ける。
「みんなー!」
深く息を吸って、吐く。
「わたしこれから馬鹿みたいなことするから、よろしくねー!!」
3人は戸惑いながらお互いを見やる。
だが、うんと頷きあう。
ユカが意気込むように両肩を回す。
「だとさ!」
ルカは刀に付いた雫を払う。
「いつものこと!」
ノアはあらあら、と手を合わせて微笑んだ。
「2人とも頼もしいわね〜」
「ノアもやるんだよ!」
ルカがツッコミながら、3人がハナの元へ集う。
「黒川ちゃんもよろしくね!」
ハナが笑いかける。
「え?」
戸惑うサキを置いて、ハナはオバケ自販機に向かって叫ぶ。
「わたし、喉が渇いたなーっ!」
オバケ自販機のボタンが点滅を繰り返す。缶缶の群れを吐き出す。
3人は防ぐ。サキもまた戸惑いながらも両刀を振るう。
「わたし、眠たいなーっ!」
オバケ自販機が別の種類の缶を吐き出す。コーヒーや紅茶の缶。4人はなお防ぐ。
「わたし、お酒が飲みたいなーっ!」
次はビールや日本酒の缶。
吐き切る度に、ひとつ、ひとつ、とオバケ自販機のボタンが「売切れ」に変わっていく。
「おまけで大当たりにならない、かっなーっ!」
オバケ自販機の表示が「7777」に揃う。今までで一番大量の缶を雪崩のように吐き出す、吐き出す、吐き出す。
吐き、尽くす――。




