修羅
「犬童ぉ!死合うぞ!血肉の一片になろうともなぁッ!!!」
轟笑。
巨躯の頭部から、どっと血潮が滴り落ちる。
血に塗れていながらも一歩踏み出した。坂田は両腕を広げ、なおも戦いを続けようとする。
対する犬童は茨木をそっとその場に横たわらせた。静かに音もなく、ゆっくりと振り返る。
「坂田」
その両眼が赤い光を迸らせる。
「貴様、修羅が見たいと言ったな」
地面からなまくら刀を引き抜く。
「ならば存分に見せてやる、これが修羅――鬼の姿よ」
ぞっ――。
得体のしれぬ悪寒に、坂田の脚が思わず竦んだ。
「だ、誰だ、貴様は――」
瞬時。刀圧。
疑問が、太刀筋の旋風に、呑まれる。
野犬のあぎとで骨を噛砕れるが如く、肉を引きちぎられるが如く。それは一方的な、屠殺だった。
龍骸は軋み、歪み、凹み、坂田は血反吐を吐き散らす。
「やめろ!やめろぉ!」
無我夢中で振り回される剛腕も、赤子のそれのように手折られる。
「――ッ!」
痛みに泣き叫ぶ声すらも、二の太刀に咀嚼される。修羅は折れた刃を胸甲の隙間に突き立てる。
そして――ばりん――と、呆気なく竜骸の胸甲が、獣性の塊が剥ぎ取られる。
「貴様、何者だ⋯⋯、こんなもの、望んでおらぬ⋯⋯!」
丸裸となった上半身。坂田は怯えながら修羅を見上げる。
そこへ、ひとつ拳が振り上げられ――殴打。
「ぐえ」
殴打、殴打。
殴打殴打殴打殴打。
殴打殴打殴打殴打殴打。
「や、やめ、がはッ――」
もはや原型を留めぬ顔を守ろうと、坂田自身の両腕で覆う。暴虐が一瞬止む。
修羅は折れた刀を持ち返し、坂田の胸に突き立てる。
「やめろやめろやめろやめろ!!」
坂田は修羅の腕を掴み、必死に抵抗する。だが、拮抗すら許されず、終わりはゆっくりと静かに確実に落ちてくる。
「死にたくない死にたくない死にたくない!!」
歪んだ顔がなお歪む。柔肌に切っ先が到達し、血が滲む。そのままゆっくりと音もなく。
もはや命乞いの言葉すらガボゴボと血の吐く音に混ざり合う。
坂田は目を見開く。
最期に映るは、修羅。最期に見たのは、恐怖。
滲み出る血潮は惨たらしい叫びに反して、小さな雫となって地に染み込んで、終わった。




