死合い
地下トンネルの暗闇の中、土蜘蛛たちが発砲を続ける。陰陽兵は痛みを感じず、同胞への憐憫もない、土砂流のように押し寄せ、止まらない。
「もうだめだ!逃げろ!」
土蜘蛛たちは互いに声を張り上げ、互いに退避を促す。だが、最後まで仲間の撤退を助けるために容易には逃げ出さず、散発的な攻撃を続けながら、じりじりと退いていく。陰陽兵の切っ先が土蜘蛛のひとりに迫る。
赤の一閃が凶刃を砕いた。
犬童が赤の線を引いて敵兵の群れのただ中へ飛び込んだ。
「犬童さん!」
「行け!ここは任せろ!」
陰陽兵からなまくら刀を奪い取り、構える。血錆びにまみれた刃先を忌々しく睨みつける。
「主への忠義も」
陰陽兵の壁を薙ぐ。
「護国への誉も」
折れた刀を陰陽兵のこめかみに投げ刺す。
「民草への恩情も」
陰陽兵の肉体を拳で剥ぎ取り、叩きつぶす。地面に突き刺さったなまくら刀の二振りを引き抜く。血まみれの殺気が身から空気へ滲み、陽炎のように揺らいでいる。その殺気にあてられた陰陽兵たちがじりじりと遠巻きに取り囲む。
恐怖を抱かぬはずの屍兵たちが後ずさっている。
「貴様らの刀からは感じられぬ!」
犬童が叫ぶが早いか、陰陽兵たちが一斉に襲い掛かる。
それらを、いなし返す。
修羅は今、殺陣に興じる。
赤のマフラーをなびかせて、機動。
揺らぐように一歩引く。幾刀の振り下ろしが一瞬遅れて虚空に刺さる。
一点に集った雑兵の群れを、猛き双眸が睨む。
大きく踏み出し、一閃。旋風が通り過ぎるように。
錆びついたなまくら刀とは思えぬ程の切れ味。いや、引き千切らんばかりの剛撃である。数多の胴体を力付くで掻き薙いだ。上下に断たれる身体の数々。
間髪も入れず、中途にて欠け砕けたなまくら刀を翻す。眼前にて構えとりつつあった一体に突き立てる。顔面ごと呪札を破壊。
滑り落ちた刀を奪い取ると、刃の背を押さえながら二体三体を斬りつけて破砕した。
血反吐と臓物を撒き散らし、踏みつけ、呪札と瘴気の数々を粉砕していく。
修羅が如き殺意は、ゆらゆらと立ち上がり、陽炎となって目に見えていた。
「見つけたぞ」
不意に、歓喜の咆哮が轟く。
遠く向こうから陰陽兵たちを蹴散らしながら坂田が迫った。
轟、と空圧。
犬童が刀で斧の重たい一撃を受け止める。
どっ、と一瞬のぶつかり。
次に、地面が放射状にひび割れ、
辺りの空気を吹き飛ばす。それを為したのは、圧。腕力任せの一撃である。
「坂田か」
つばぜり合いの中、犬童は静かに、低く、殺気で答える。
「見つけたぞ、修羅よ」
どこか遠く、だが、確かに喜びの色に塗れた静かな歓声。坂田の双眸が一層輝く。
「恋焦がれておったぞ、この殺し合いを」
犬童は答えず、力込める。
閃光が弾け、両者飛び退く。双方ともに得物を構え直す。
「起きろよ、犬童。そんな眠い太刀筋、興ざめだ」
「黙れ」
押し込めるような低音で返す。
坂田は鼻で嗤った。
「あるいは」
機会を合わせたかのように轟音が犬童の後方から響いた。
「更に殺せば、目覚めてくれるか、修羅よ?」
振り向けば、トンネルの外壁を破壊して陰陽兵たちが逃げつつあった土蜘蛛たちに雪崩込んでいるところだった。
鮮血と叫びが上がる。
「臭い、臭い」
陰陽兵たちに守られるように鼻を摘んだ狐月がゆっくりと歩く。
「溝鼠ども、臭くて堪らんわ」
土蜘蛛たちの死体に霊札を投げ張る。
「これでみてくれだけでもマシになるだろうて」
彼らを己の傀儡とし、さらなる殺戮に興じる。
「外道め!」
犬童が悲痛な叫びを上げて踵を返そうとする。
人外なる速度を以て、坂田が回り込み、立ち塞がり、一振りを落とす。犬童は刀で弾く。
「さぁ、俺を殺せ!」
二人の死合いが再開される。
戦いの中でも、さぁ、さぁ、と芝居めいた嬌声で煽る。
さぁ、さぁ!と熾烈化とともに、声にも感情が染み出していく。
「さぁ!殺さねば、守れぬぞ!」
力いっぱい大斧を叩きつける。衝撃で受け止めた犬童の足場崩れる。両者はその体勢のまま、地下空洞へ落ちる。
広がる旧世代の廃都。土よりも硬い硬質な灰色の巨人たちが立ち並ぶ。黒で塗りたくられた道々が血管のように張り巡らされている。方方で打ち捨てられる鋼鉄の籠。
二つの影が、瓦礫とともに、剥がれた外皮とともに、そこへ、底へと、落ちる。




