坂田
「しぶとく生に縋るクソ虫ども!さぁ、死合おうか!」
陰陽兵たちの先陣を切って、獣じみた巨大なる竜骸が土蜘蛛たちを肉片として蹴散らしていく。突貫は弾丸を物ともしないまま勢い良く繰り返される。鋼鉄の胞衣を纏った暴虐の精神。双眸が闇に赤く尾を引いて、哀れ土蜘蛛たちへと飛びかかる。
その腕は熊の如く太く力強く、両の脚は駿馬の様相に似る。体躯は二間はあろうという巨体は、しかし、胴体は鋭角に引き締まっていた。
刺々しい角飾りを頭部覆う面頬から生やし、返り血に狂い乱れる。
犬童のものとは異なる似姿。
その竜骸を纏う者、名を坂田といった。
坂田の前に立つ者全て、そう進路に躍り出てしまった味方の陰陽兵ですら、人の形で存在することを許されぬままに臓物と血肉へと転じる。
得物は大斧。竜骸の身の丈もあろうかという業物である。黒斧の両刃は瞬く間に骨片に塗れた。
暫しの殺戮の後、戦場には坂田一人が残った。
「あぁ、本当にくだらんよ」
ガバと胸甲を開き、龍骸の内から男がするりと現れる。おかっぱ髪がさらりと風になびく。上裸の痩躯は豹のようなしなやかな筋肉を纏っている。
「何をおっしゃいますか、坂田殿。こんなにも嬉々として死屍累々を撒き散らしながら、耳を疑いまするぞ」
狩衣を着た男が一人背後より近付く。安倍狐月。烏帽子を洒落に被った孤月は鼻をつまみ、手で臭いを払いながらもの申す。
「首領の首さえ持ってくればいいのです、こんな無駄な殺生は臭いだけですぞ。せっかく桃源様から賜った竜骸を臭いものにしてはなりませぬ」
彼らの周囲には死体や肉片の数々。陰陽兵も土蜘蛛も分け隔てなく平等に。
「逆賊退治も、国取りも、何一つ俺を狂わせない」
孤月の嫌味に視線すら向けず、物思いにふける坂田であった。憂いを帯びた眼光をたおやかな睫毛の陰に隠して深く項垂れた。
「返り血はこんなにも赤く熱いのに、苦く辛い。なぜこうなった?いつからこんなにもつまらなくなった?」
「⋯⋯」
ひとりごち、呟きを止めぬ武将に孤月は閉口した。呆れるほどの戦闘狂。世の行く末も、武功すらも、もはや此奴には関係のない話だったのだ。
不意に坂田は顔を上げた。闇に包まれた道の向こうを見据える。
「だが」
しなやかに龍骸に戻る。双眸に光が宿る。竜骸より獣の咆哮。
「お前だけは例外だ、犬童。修羅の男よ。我が恋狂いよ」
闇に、疾駆。




