戦乱の日ノ本
鬼ヶ島より幾百海里と離れた島国。
人間たちが住まうそこは、豊かな自然と四季によって移り変わる動植物に恵まれ、"日ノ本"と呼ばれていた。
今、日ノ本は戦乱の世にあった。
永き凄惨なる殺し合いに国土は廃れ、貧困なる糧食に喘ぎ、井戸も血に涸れた。
刀鎧を作るために掘られた鉄鉱から金毒が河川へと流れ込み、山の民が狩猟していたはずの森すら枯らした。神仏の遍くは打ち壊され、百姓たちは縋るものを無くした。山道は野盗が蔓延り、一夜にして燃え尽きる集落すらあった。
この世に命など取るに足らないものだった。故に若者老人女たりとも軒並みに徴兵され、顔見知りすら殺し合う世界に顕れたその新星、桃源の武功は瞬く間に全土に広まっていた。
黒黒とした甲虫の如き光沢放つ大鎧。決して傷ひとつ付かぬ竜骸。ヤマタノオロチの頭蓋骨から彫り出されたとされるそれを着込み、身の丈を超える大太刀を振るえば、匹夫の胴を三つ四つは断ち切った。
苛烈なる猛将。人の身になれど、一騎当千の鬼神。彼の覇道には、血潮のみが残される。故に桃源は天下統一を成したのだった。
群雄割拠たる武将たちは倒れた。血と恐怖で治められた国。それが現在の日ノ本である。
だが、述べた通り、戦乱は終わってはいない。
踏み締めた足元から虫が這い出すのは世の常である。いかに盤石な城とて、血潮臓物腐肉で凝り固められた礎に、害虫が付かぬなど有りはしなかった。
桃源の統治に乱を企てる者たちあり。蜘蛛の巣のように張り巡らされた地下空洞を縦横無尽に動き回る彼らは"土蜘蛛"と忌み呼ばれていた。
黒川早紀はそうした土蜘蛛の身に生まれた。暗くじめじめとした地下深くで、両親の寵愛を受けて育つ。摂るものも少なく、栄養価は少ない粥を啜ったものの、髪は丁寧に梳かれて艷やかだった。そして、日の明かりすら眩しいと感じていた幼き日には桃源軍の手により父と母を失ったのだった。
だからこそ、彼女もまた桃源の討伐のため、戦場へと身を置いたのだった。




