折檻
――ドサリ、と音を立てて孤月は畳に伏した。
頬には殴打の跡が残り、あまりに強く殴り飛ばされたのだとわかる。
「この出来損ないめが!」
老人がずんずんと孤月に迫り、拳握りしめたまま、蹴りつけた。
「貴様、自分が何をしでかしたか、わかっているのか!」
何度も、何度も。
「お、お許しくだされ、父上!全ては彼奴の奸計でございまするゆえ!」
「許せだと!?」
聞く耳を持たず蹴り続ける。何度も、何度も。
その憤怒に歪んだ顔に対して、孤月は、ひえぇ、と怯えることしかできなかった。
「貴様のくだらぬ功名心と我欲のために、我らは先制の機会を失ったのだぞ!恥をしれ!この俗物めが!」
「もうよい、晴明」
父の折檻を制する声があった。
老人、安倍晴明は暴力の足を止めて、すぐさま平伏した。
「しかし、桃源様。この愚息のせいで大局を左右するであろう機を逃してしまったのは事実。この安倍晴明、愚息とともに腹を切るつもりでございます」
御前に向けて顔を伏したまま異を唱える。
腹を切る、といった不穏な言葉に孤月が青ざめる。小声で耳打ちするように父親に懇願した。
「ち、父上!」
「黙れ、孤月!」
晴明は息子の泣き言を一喝する。
「見苦しいぞ」
威圧的な声が再び響いた。
上段の間に、居を崩してあぐら掻く男。名を桃源といった。
「大方、天邪鬼にでも誑かされたのだろう」
桃源は微動だにせず淡々と言った。肘置きに頬杖をつきながらもその声には真剣のような冷たさが籠もっている。
「それに、夜襲強襲程度で崩れる鬼どもとは思ってはおらぬ。いずれこの手で決着をつけねばならぬのであれば、些末なことであろう」
晴明は再び頭を下げ、はっと、同意の返答を上げた。
「それよりもだ」
桃源は身を正した。
「竜骸の準備は抜かりないな、晴明」
「はい、祈祷、武装、滞りなく。後はアメノトリフネに積むだけとなりまする」
「なら、よい」
桃源は下がれ、と命じるかのように顎を引いた。
はっ、と老人は畳を擦り進むように身を引き、孤月の腕を掴んで間を後にした。
一人残った桃源は、碗に酒を注ぎ、一気に呑み干した。
勝利の美酒、祝い酒。それは早くも、辛い。いずれ来たるものなのかもしれない。




