離別
鬼ヶ島各地を襲った鉄の大蛇は、衛士隊の働きによってその全てが討伐された。しかしながら元旦その日、同時多発的に行われた襲撃は被害と犠牲は甚大であり、復興のために多くの労力を必要とした。この一大事件に対し、最高意思決定を担う一人、朱天童子は「人間による侵略行為」だと断定し、島全土に非常事態宣言を発した。
衛士隊によるパトロールが厳重化し、ツクモガミの程度を問わず大々的なツクモ狩りが日夜行われることとなる。
鬼たちは蒼い瘴気に怯え、街からは活気がなくなった。
ツクモ狩り部はどうだったか。
ノアとユカは次の日には目を覚まし、記憶障害も特になく退院した。サキは負傷した片腕の手当てを受け、今なお包帯をしているものの、以前と同じように動かせるほどまで回復した。
ハナもまた大きな怪我も、異常もなく、いつも通りの瞳で日常を過ごした。
ルカの容態は悪かった。集中治療を施され、面会謝絶の日々が続いた。ツクモ狩り部の部室は幾らか静かな雰囲気に包まれた。ルカちゃんまだ帰ってこないかな、なんて話をしながら。
そして、その日、ハナたちのクラスに転校生がやってきた。
「青海瑠華です。よろしく」
青い長髪に、青い一本角。見慣れたはずの顔からは、見慣れない表情。
微かにざわつく教室を大江が静かに制する。
「記憶検査の結果、青海ちゃんはここ数年に渡る健忘症状が見られました。戸惑う気持ちは分かりますが、新しい友達として改めて迎えてあげてください」
そんな、と呟くことも忘れて、ハナはユカを見た。
彼女は血の気が引いたような表情をしていた。目を見開き、唖然と口を空けている。戸惑いと焦燥を汗に滲ませて、ただひたすらにルカを見つめていた。
ルカは去年と同じ席、幼馴染のユカの隣だった。確かな足取りで歩み寄り、椅子を引く。戸惑いにたじろぐユカに彼女は微笑んだ。
「改めてよろしくな、ユカ」
至極当然のようにルカはそう言った。
「お、おう」
生返事で返したものの、拍子抜けの表情は拭えなかった。
次の授業の準備をするルカの横顔を呆けたまま眺め、逡巡し、言葉を辛うじて繋いだ。
「お前、アタシのこと覚えてる?」
「ああ、もちろん」
意外な一言にユカはどぎまぎせざるを得なかった。
「次は移動教室だ、遅れるぞ」
そう言って席を立つ。
「あの、さ」
「どうした?」
青い瞳はユカだけを見つめている。
「ハナたちは?一緒に行こうぜ」
「ハナ?」
ルカは首を傾げた。
ユカの背中に怖気が走った。冷や汗を滲ませて振り返る。一瞥した先を見て、後悔した。
ハナ。ピンク色の髪の少女が唖然と立ち尽くしていた。
「ルカちゃん⋯⋯」
掠れた声で呼び掛ける。
「ああ、君か」
すまない、と謝ってルカは苦笑した。
判然としない記憶を辿るように、眉をひそめて少女を見つめた。そして、気まずい沈黙を破ろうと口を開いた。
「いや〜、あはは」
ユカの乾いた笑いがそれを封じた。
「紹介するよ、ルカ。こちらハナちゃん!ツクモ狩り部の次期部長でございます!」
「⋯⋯ツクモ狩り部?」
ルカの問いに、ぐ、と喉を鳴らし、だが、無理やりに笑みを捻り出した。
「そうそう!ツクモ狩り部!お前2年間在籍してたんだぜ〜!覚えてないのかよ〜!」
「あ、あぁ、本当に――」
「ひどいね〜!よっ!この薄情者〜!」
おどけて肩を小突き、そのまま腕を回す。ハナとルカを引き離すように、教室から連れ出していく。これが最善だと、言わんばかりに。
桃色の少女はひとり取り残され、友達だったその背中を見送ることしか出来なかった。




