わたアメ
大掃除はルカの見事な采配で無事に終わった。
ユカは結局終わるまで帰ってこなかったが、ゴミ捨ての帰り道に大江から貰ったお駄賃で大量のお菓子を買ってきたので難を逃れた。
紅茶を淹れて、一息つく。
長机には大量の菓子とともにアルバムが積まれている。ハナの呼び掛けで1年間の振り返りをしているのだった。
新年度から始まり、自販機の前での集合写真、猫横丁で猫たちと撮影したスナップ写真。相合い傘をして帰るユカとルカの背中。花火を見つめるサキの横顔。笑顔で抱き合うノアとたまちゃん。ハナの祖母の写真。紅葉。冬休みで遊園地へ遊びに行ったもの。諸々。たくさん。
1枚1枚指さして語り合う。あのときサキはしかめっ面だった。ユカはいつものように適当だった。ルカが走る姿は格好良かった。ノアはたまちゃんといつも一緒だね。ハナが犬に追いかけられて必死だった。
笑顔も、辛いときも、嬉しいときも、悲しいときも、全部、ここにあった。
部室は写真と菓子に溢れてしまい、大掃除をする以前より散らかってしまったように思えるけど、それでもよかった。
カシャ――。
顔を寄せ合い、楽しそうに語らうツクモ狩り部をカメちゃんが密かに写真に収めていた。
「初詣行くぞ!初詣!」
日がとっぷりと暮れ、空が群青色に染まる頃、ユカが出し抜けに立ち上がった。
「はい?まだ年明けてないのに?」
サキの言うとおりだ。時刻は5時を過ぎたところ。まだ年明けまで充分な時間がある。
「フライング初詣ってやつ。どうせ夜はめっちゃ混んでて疲れるだろ?」
ぶん、と素振りをして快活に笑う。
「それはスイングな」
「わぁ!それなら屋台とか見て回ろーよー!」
「さんせ〜い、わたし、わたアメ大好きなの〜」
「決まりだな!行こう!」
ハナとノアは乗る気である。2人に乗じてユカが押し切ろうとする。
「ちょっと待て、片付けどうするんだ」
ルカが長机の上を指し示す。ごっちゃぁ、という擬音語が出てきそうなくらい食べかけの菓子やらコップやらで散らかっている。
「そんなのは年明けてからだ!」
「おい」
「賛成」
「サキまで!?」
軽く手を上げたサキにルカが驚いて振り返る。味方はいないのか、敵しかいないのか。
「だって大掃除で、もう疲れちゃったわよ。片付けなんて後日やればいいじゃない。手伝うわよ」
「手伝うものなにも、お前が一番食べてたじゃないか」
「知らない。覚えてない」
「コイツ⋯⋯!」
やり取りにハナが、あはは、と転がるように笑った。
「サキちゃんも、すっかりツクモ狩り部の一員だね」
サキが一瞬、目を丸くする。メンバーの顔をゆっくりと見渡す。皆、うんうんと頷いたり、微笑んだりしている。
サキはわざとらしく首を傾げた。
「別に。入部したツモリナンテナイデスケド」
「食費は一番掛かってるよな」
「ね〜」
「ああ、もう!それでいいわよ!」
痺れを切らしてギターケースを肩に担いだ。ずんずんと、部屋を出ていく。
「行くんでしょ!?フライング初詣!」
「うん!」
ハナはぱっと微笑み、その背中を追った。
夜の街は橙色に染まっていた。行燈が通りに吊るされ、淡い光を放つ。道行く鬼たちを照らし、暖かに頬を彩る。鮮やかな髪色が踊るように反射している。大晦日の夜だというのに街は賑やかだった。ただ、往来の流れは穏やかでまだ余裕がある。これが0時に近付くにつれて徐々に嵩を増やすのだ。
ツクモ狩り部は神社に向かって進む。坂道を下り、猫横丁を通り抜け、本殿真向かいの大通りへ。
屋台の幾つかが既に準備を終えて、鉄板から威勢よく白煙を吐いている。ハナたちの興味はやはりわたアメ屋に注がれた。
糖の糸が割り箸に手際よく巻かれていく。あっという間に手元にふわふわの雲が出来上がった。数は5つ。ピンクに青、黄色と赤、黒色に色づけられて、彼女らの表情を鮮やかに彩った。鬼たちの髪色に合わせて着色料は豊富にあるようだ。
「サキちゃん!こっち食べてみて!いちご味だよ!」
ハナがるんるんとサキに分ける。
「全部一緒よ」
そう言いながらも、口にする。
甘い。
確かに、不思議といちごの風味がするように思えた。錯覚がみせる味覚だろうか。ただ甘いの一辺倒だけなのなら、騙されてみるのもこの時ばかりは良いと思えた。
「こっちはレモン味ね〜」
「いや、パイン味だろ」
「いも味だな」
「それはない」
そんな風に食べ歩く。
同じ砂糖だけで出来た簡素な食べ物。口溶けとともに消えてなくなってしまうのに、みんなで食べた味だけはいつまでも残るようだった。
焼きイカに胡瓜の浅漬け、チョコバナナ、などなど。買い食いを繰り返して、進む。気の赴くまま、手を引かれるまま、金魚のように泳ぐさまは、悠々として朗らかである。大掃除の疲れすら、ここにはなく、年越しの平穏を祝う音頭の舞に目を輝かせる。
神社までの道のりはそこまで長くないはずなのに、提灯の灯りが色濃くなってしまうまで、いつまでも辿り着けなかった。
「あ」
鐘の音が遠くから響く。
除夜の鐘がつかれ始めて、5人は本来の目的を思い出した。余裕をもって出かけたつもりが、雑踏の音と揺れる肩は徐々に視界を狭めはじめていた。
それぞれが思い思いの食べ物を急いで平らげると足早に社へと向かったのだった。




