天邪鬼
「見つけた」
暗がりの中。蝋の火に照らされて鬼は、にっこりと微笑んだ。赤い双角は捻じくれたばかりではなく、左右で大きさを違えていた。角の生え際周りには棘が幾つか飛び出し、奔放な敵意を周り構わずに向けているかのようだ。濡烏の如く滑らかに肩まで延びた黒髪の毛先は、緩やかに踊るように外へとハネている。暴虐性と妖艶さが同居する外見は、黒のスーツに包まれて女性の型を為していた。
そんな鬼が人差し指と親指で作った輪っかを片眼鏡のように目元に当て、中空を覗き込んでいた。
「学校の下とは、やっぱりお姉ちゃん変わってないなぁ。生徒たちのことなんてこれっぽっちも考えてない」
輪っかを解いて、ぐっと伸びをする。その動きに灯りは揺らぎ、頼りなく辺りを舐めた。
蝋燭立ての灯りだけが佇む、暗闇に包まれた鉄の腹。敷かれた畳。洋椅子はぎしりと音を立てて、鬼を抱きとめた。
「ついにか」
鉄の床を踏んで、喜びを滲ませた男声が響いた。足先は畳を越えず、明かりのもとに顔を突き出す人間がいる。
白の和装。雅な祈祷服。狩衣。たおやかに生えた長黒髪を先で軽く縛り、尾のように背負っている。その頭には烏帽子を乗せている。
「貴様が語った、遍く脱法邪法下法の根源"ヤマタノオロチ"!それをついに!見つけた、と!」
少し甲高い。声に熱が入っていることは明白だ。興奮に居ても立っても居られない様子である。
「そうだよ、孤月。僕らが永年追い求めてきた解法がそこにあったんだ!」
鬼が大袈裟に腕を広げ、ニヤリと笑う。
「これで君も父上を――安倍晴明を超えられる!安倍の家督は君のものだ!」
「おお!」
男――安倍孤月は浮かれるように身を乗り出す。小笏を口元に当てて、ほほほ、とほくそ笑んだ。
「そうでなければ、父上の目を盗んで呪札をくすねた甲斐が無いというもの!」
「ははは、全部言うじゃん、君」
鬼と孤月は笑う。半ば芝居がかっているようにも思える。特に鬼は顕著であった。狡賢さを強調して振る舞った。
「ははは、あーはっはっ」
「して、天邪鬼」
孤月が真顔になって切り替えた。
天邪鬼と呼ばれた鬼もまた、無に表情を変え、なんだい、と首を傾げる。
「貴様に与えた呪符の数と、くすねた数が合わんのだ」
「あぁ、それね」
天邪鬼は、さも詰まらなさそうに自らの爪を眺め始めた。
「なぁに、桃源様の勝ち戦に色を添えてあげようと、ね」
「また、良からぬことを考えておるな、貴様」
「いまさら」
ふふ、と微笑む。白肌の頬は薔薇色に染まり、睫毛は憂いを帯びて綺羅びやかに。その赤の瞳は何処を見ているのか、わからなかった。




