微笑み
「まさかシロップを掛けまくってカキ氷に戻してしまうとはな、考えつかんかったなぁ」
金童子が角をぼりぼりと掻きながら、がははと笑っていた。
衛士たちはシロップ溜まりに浮かぶ容器を回収して回っていた。青と白の印刷に氷の赤文字。ぐしゃぐしゃに折られたもの、酷く汚れたもの、破れかけたもの、一様にゴミとして捨てられたカキ氷のカップだった。
「アレに鬼力が宿ってたのね」
サキはハナに取りつかれながら、彼女の肩越しに眺めていた。
「ああ、しかしどうやら、それだけではないらしいな」
金童子の顔がしかめられた。毅然とした動きを以て紙片を拾い上げた。
「君はコレが何かを知っているのだろう」
「陰陽兵⋯⋯」
サキの呟きに、彼は頷く。
「最近になって多発するツクモガミの大規模被害の全てにコレが関わっている」
数多の人間の怨嗟と絶望を封じた呪符。本来なら死体に取り付けて術師の傀儡としていたはずのソレが、ツクモガミすら操っているとでもいうのか。
「やはり、アイツが⋯⋯桃源が⋯⋯」
「⋯⋯とう、げん?」
ぐりぐりと頬をねじ込んでいたハナが反応する。疑問だらけの視線をサキの目に注いだ。
金童子は、しまったといった風に自らの後頭部を叩いた。転じて、表情を崩す。
「いやぁ、鬼ヶ島というのは桃源郷だなぁってね、がはは」
「ハナーっ!サキーっ!」
ユカたちの声が響く。金童子はグッドタイミングとばかりに指を鳴らした。
「ほら、お友達たちが来たぞ!出迎えてあげなさい!」
がはは、とわざとらしく演じる。本当に嘘が下手な鬼のようだ、とサキはぼんやり思った。
「ユカちゃーん!ルカちゃーん!ノアちゃーん!」
ハナが、たっ、と走り寄る。ノアと手を繋いで、ぴょんぴょんと再会を喜び合う。ルカもユカも、何だか涙ぐんでいるようだった。
本当に、嬉しそう。
サキは少し微笑んだ。
ぽたぽた、と雫が拍を刻む。ぴちょん、と飛沫が跳ねる。流れる水音がやけに大きく聞こえる。
サキは、表情を硬くした。
なら、なおさらだ。
この島は守らなければいけない。
もう奴らに大切なものを奪わせやしない。
柄を握る力が強まる。
両刀は鬼力を以て、返した。
宿った。
ほんの僅かで、小さな灯火だけど、確かに、鬼力が宿っている。
サキは今この瞬間、本当の意味で、武器を初めて手にしたのだった。




