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ツクモ狩り部

「みんなーッ!」

 元気よく扉を開け放つ。

 そこは、どこにでもありそうな文化系部活動の部室だった。

 縦に長い一室の中央には長机が並べられ、その上にはティーセットといくつかの茶菓子、ボードゲームの箱。壁のコルクボードには去年の活動予定表や、よく分からないイラストが貼られている。

 棚には雑多な工具が投げ入れられた段ボールがいくつか納められ、分厚いファインダーも並んでいる。

「おー!ハナ、やっと来たかー!」

 パイプ椅子をぎしりと軋ませてユカが振り返った。

「ごめんね、遅くなっちゃった!」

 そう謝りながらも、サキに互いを紹介する。

「こちらは黒川サキちゃん。で、こちら部長のユカちゃん、こっちは書紀の黄島乃愛ちゃん!」

 ハナが胸を張って二人を紹介する。

 ユカが手をひらひらと振って挨拶をする。

「よろしくねー」

 その隣では、金髪ロングヘアーの少女がにこにこと微笑んでいる。

「よろしく〜」

「新キャラだ」

 サキがボソリと呟く。

 ノアと呼ばれた一本角の少女はカーディガンを羽織り、茶菓子の準備をしているところだった。

 思わずサキは涎を嚥下した。

「いまなら入部で年間会費タダだよ!」

 ハナがそんなサキに笑いかける。

「いや勝手に決めるな!」

 ユカが即座に突っ込んだ。

「え?でも私のときはそう言ってたよね!?」

「んー……」

 ユカは腕を組み、少しだけ考える。

「あー、そうだっけ?忘れたわー」

「えー!?じゃあ、今この瞬間にも会費が発生してるってこと!?」

 ハナが両手を広げて驚く。

「立ちっぱなしもなんですから、どうぞどうぞ」

 ノアが椅子を引いて呼ぶ。

「今までどんだけ食って飲んでしてきたと思ってるんだ?追加で発生してますよそりゃ」

「タダじゃなかったの!?」

「当たり前だ!なぁ、ノア?」

「いいのよ〜、ハナちゃん。お家にいっぱいあるからたくさん食べて飲んでってね〜」

「……!」

 サキの目が輝いた。

 黄島がその様子にくすくすと笑う。

「あらあら〜、私の分がなくなっちゃいそうね〜」

「そ、そんなに、たべない!」

 ぷい、とサキは顔を背けた。

 そのまま彼女は部室の中をゆっくりと見回す。

 見知らぬ人間。

 見知らぬ机。

 見知らぬ道具。

 そして、自分を当たり前のように迎え入れようとする人々。

 そのどれにも、まだ馴染める気がしなかった。

「お、新入部員は転校生か」

 扉が再び開く。

 ルカが入ってきた。その手には蒸気を立たせるポットを持っていた。彼女もまたお茶会の準備をしていたらしい。

「よろしく」

 ごく自然に空いた手を差し出す。

 サキは、その手を見る。

 次いでルカの顔を見る。

 次いで輝かしいまでの笑顔のハナの方をちらりと。

 しばし無言。

 そして何も言わず、踵を返した。

「ど、どこ行くの?」

 ハナが追い縋る。

「帰る」

「え?」

 振りほどかれたハナが目を丸くする。

「でも、これから黒川ちゃんの歓迎会を――」

「勝手に決めないでっ!」

 サキが勢いよく振り向いた。

 その声に、部室の空気が一瞬だけ止まった。

 そのときだった。

 

 ぴょこ。

 

 ハナの頭の上から、黄金色の半透明な手が伸びてくる。

 カメラの"ようなもの"が、いつの間にかハナの頭によじ登っていた。見覚えがある、そのレンズ。

「コイツっ、あの時の!?」

 サキが目を見開く。

 

 カシャッ。

 

 小さなシャッター音。

 撮られた。

「肖像権の侵害!!」

 サキが顔を隠して叫ぶ。

 

 バタンッ!

 

 勢いよく扉が閉められる。

 静寂。

「……あれ?」

 ハナがぽかんとする。

 ユカが呆れた顔でハナを見る。

「花、お前、それはひどいよ」

「わ、私のせい?ち、違うよね!?今のは"カメちゃん"が勝手に撮ったからだよね!?」

 ルカが腕を組む。

「何が何だか分からんが、飼い主がきちんと躾けないからだぞ」

「なんでぇ〜?」

 ノアがハナの頭の上を覗き込む。

「カメちゃん、めっ、よ」

 カメちゃんは何食わぬ顔でレンズを明後日の方向へ向けている。

「……反省してないよね?」

 ハナがじっと見つめる。

「カシャ」

「撮るなって」

 今度はユカがカメちゃんを小突いた。

 部室に笑い声が広がる。

 

 けれど、ハナだけは閉じられた扉を見つめていた。

 その向こうにいる少女の姿を思い浮かべる。

 つっけんどんで、クールなのに怒りっぽい。何だか不思議な子。

 そして、なによりも反応が、可愛い。

 昨日、差し出された傘を見て、彼女は潤んだ瞳を向けていた。

 きっと独りぼっちで、どうしたらいいか分からないんだ。

 それが、たまらなく可愛かった。

 小さく呟いた。

「また明日」

 微笑む。

 その声は、誰にも届かなかった。

 

「あっ!てゆうか傘返してもらってない!!」


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