友だち(予定)
新年度の学校集会に校長の訓話。
ハナは舟を漕いでいる。ルカが肘で小突かなければ、倒れ伏すところだっただろう。
大江とユカは相も変わらずとして、今回ばかりはルカも話の内容をあんまり覚えていなかった。
そんなこんなでホームルームへ。港学園はクラス替えが無い。それを寂しいとかつまらないとか言う生徒たちもいたが、三人にとっては喜ばしいことだった。
春休みにどう過ごしたか話をして色めき立つ教室に、担任の大江がフラフラと入ってきた。
教壇につまずきながらも、教卓に突っ伏しながらも、はっと身を正してゆるーく話し始める。
「えー新年度ということで、みんな浮足立っていると思いますがぁ〜、更に嬉しいことに、今日からクラスメイトがひとり増えますので、みなさん拍手〜」
へべれけな様子で招く。
「オリコンチャート1位、黒川早紀さんです、どうぞ」
深い藍色の長髪がなびく。毛肌はまるで濡れカラスのように艶やかで美しい。陽の光を浴びて誰もが見惚れるほどのハイコントラストが煌めいていた。そして、その頭部には見事な赤色の双角が少し捻れて天を向いていた。
だが、彼女は無表情のまま生徒たちの前に立った。
静寂が流れる。
その少し奇抜なファッションに教室中で囁き声が次々と滲んだ。
「ギターケース…?」
「赤いマフラー…?」
「セーラー服だ……」
転校生はそんな一同を黙らせるように冷たく言い放つ。
「黒川早紀です。よろしく」
一礼だけする。
静寂の中にチョークの音だけが響く。
「はーい、黒川早紀ちゃんです。みんなよろしくね。あ、あと既定の制服が間に合わなかったらしいから、あんまりジロジロ見てあげんなよ」
大江が頭を揺らしながら、ぽやぽやと言う。
「で、黒川ちゃん特技は?」
「……」
「特技」
「……射撃です」
お〜、というどよめきが走った。
そんな中で、ハナだけが違う様子だった。
「昨日の子だ」
またね、の約束が叶った。
嬉しくて頬が緩む。
自然とサキへの視線に熱がこもっていた。
ふと、目が合う。
思わず、手を振る。
サキは、ぷい、と顔ごと目線を逸らしたのだった。
そして放課後。それまで他のクラスメートたちに独占されていたサキがひとりになっている。
驚くべきことだが、彼女は開口一番、「馴れ合うつもりはない」と言い放っていた。転校初日だというのに質疑応答の熱はいくらか収まりつつあった。クラスメートたちも、ひとりが好きなんだ、という評価をして必要以上に話しかけなかった。
そんなやりとりを見ていながらもハナは、タイミングを見計らい、サキに声をかけた。
「ねぇ、黒川さん!私、桜ハナ!学校案内しよっか!?」
「……」
はぁ?、といった表情が返ってくる。
「先行ってるぞー」
「サキだけに……」
ユカルカはそう声をかけて教室を出ていく。
二人を目で追いながら、サキはハナに向き直った。
「お友達、行っちゃったわよ」
「うん」
ハナは満面の笑みだ。
「じゃあ、私たちも行こっか!」
押しが強い。ずい、と顔を近づける。
サキは僅かに距離離す。
「……勝手にどうぞ」
「えっ!?勝手にしていいの!?やった!」
「……意味わかんない」
サキは引き気味な様子。
「やっぱりやだ」
そういってギターケースに手を掛けた。
ハナが慌てて身体をかがめた。
「あ、重そうだね!持つよ!」
手を伸ばす。
「触んないでッ!」
怒気孕んだ叫び。皆が何事かと此方に向く。
ハナもまた驚きで動きを止めた。
サキはぐっと持ち手を引いて拒絶していた。
「ご、ごめん……」
ハナは消え入りそうな声で謝罪する。そんなつもりはなかったの、と下を向いて続ける。
だが、サキはぴしゃりと言い放った。
「私に関わらないで」
そのまま席を立つ。ハナを置いて、教室を後にする。
「みんなでお菓子食べたかったのに……」
「お菓子?」
ハナの呟きにサキがひょいと顔を出す。
「え?」
「お菓子って、甘くて美味しい、あのお菓子?」
「う、うん」
ハナがどぎまぎしている中、サキは深く思案しているかのようだった。
「いいわ、少しだけ、ほんとうに少しだけ、付き合って上げる」




