記念撮影
旅館前に着くと、そこにはたまちゃんを載せたトラックが停まっていた。
大江が荷台から降りてくる。彼女は慣れた様子でたまちゃんを荷台から降ろすと、すぐさま帰り支度を始めた。
「大江ちゃんも紅葉狩り行こうよー」
ユカが大江の腕を引っ張って駄々をこねるものの、引率になるから嫌だと言い張った。
「なんか問題起きたら私の責任になっちゃうからね~」
帰りの時間を軽く確認した後、手を振って帰っていった。
チェックインし、5人は一室に案内される。
「わぁ!」
「すげー!」
部屋の広さに驚く前に、窓から見渡せる景色に舌を巻いた。
赤、黄色、橙の時雨滝。木々の枝から色とりどりの葉が垂れ下がり、額縁のように窓枠を飾り立てるかのようだ。はらはらと落ちる枯れ葉が、視界いっぱいに広がっていた。遠く足元では渓流が轟々と白波を立てて飛沫を上げる。自然の調色が見せる絵画は、普段美術鑑賞などしない女子高生5人にとっても、素直に美しいと感嘆させるほどであった。
荷解きと暫しの休憩の後、一同は裏山に向けて出発した。
渓流に架かった橋を渡り、山に入る。道中の景色だけでも充分楽しめたが、大江に教わった絶景スポットを目指す。
「みんなで旅行なんて中等部での修学旅行以来だな〜」
ユカが道すがら撮影会に勤しむハナとルカを眺めながらぼやいた。
「そうね〜、懐かしいわ〜」
ノアはたまちゃんに触れて微笑む。詳細な記憶はないものの、たまちゃんを通してその時の感情や想いを拾い上げていた。
「4人はずっと一緒なの?」
サキが何気なく訊ねた。視線はカメラマンに扮したハナとバッチリポーズをとるルカに向いたままだ。
「そうなのよ〜、港学園って中高一貫でしょ?みんな気があってね〜」
ね〜、とノアとユカが顔を見合わせて笑う。
「アタシとルカに、最初声掛けてきたのがハナだったんだよな〜」
「あら、私もよ〜」
ふふふと二人で含み笑う。
「すっごい緊張してたな、アイツ」
「ね〜、いじらしかったわ〜」
「ふぅん」
サキはふわりと4人を見渡した。自分の知らない一面も、場面も、あったのだろう。それらを通して今の仲の良さがあるとしたら、納得がいく。
ふと、ハナの祖母の言葉を思い出す。
『これからもずっと仲良くしてね』
あるいは自分も、4人と一緒に、心おきなく笑い合う日が来るのかもしれない。
そうだ。心おきなく。
何のわだかまりも、後悔も、後ろめたさも。何もなく普通に、普通の人間として、彼女たちと触れ合う。
どんなに楽しいことだろう。どんなに嬉しいことだろう。
ここまでずっと一緒にいれば、そう思う。そう感じる。
この子達は、眩しいから。
だけど。そのときは――。
――そのときは、なんだ?
何を考えている。
自分には、そのとき、など必要ない。
ありえない。
「おーい!そろそろ行くぞー!道はまだまだ長いんだからなー!」
ユカがハナとルカに呼び掛ける。
はーい!、と元気よく返事をして駆けてくる。
通り過ぎる最中、ハナの頭に取りついたカメちゃんがじっとサキを見つめていた気がした。
「なによ⋯⋯」
ぼやいて、後を追いかける。ゆっくりと静かに。
「わぁー!すごいよ!!」
「あら、本当ね〜!別世界みたい!」
「わぁーお!」
「これは確かに本当に⋯⋯」
滝音轟く山間部。先行していた4人が坂上で叫び声を上げた。
「なによ大げさに⋯⋯」
やれやれと追いついたサキが、顔を上げる。
「⋯⋯」
声が出なかった。
その光景。この絶景。
一筋の白滝に分かたれた赤と黄色の2色。此方は黄、彼岸は赤。ひと言で言えば、水彩画。葉々は波打つように揺れ、視界に滲む。水飛沫が斜光に撫でられてきらきらと輝いている。落ち葉は絶え間なく、風に乗ってひらひらと舞い落ちる。水面に着いた紅葉が河流へと穏やかに流れていく。鳥たちがリズミカルにさえずり、滝落ちる水音の拍動に律を乗せる。聴覚すら画の一部に思えた。湿った空気も澄み渡り、心地良い。
ノアの言うとおり、別世界だった。
こんな景色、生まれてこのかた今まで見たことない。
「サキちゃーん!みんなで記念写真撮るよー!」
いつまで眺めていただろうか。定かではないが、ハナの呼びかけに意識を戻した。
「い、今行くから!」
何故か、素直に応じられた。素晴らしい景色に気を良くしたのか。それとも、出し抜けに言われたために反射的にそうしたのか。判然としないまま、サキは4人のもとに走り寄った。
「カメちゃーん!お願いねー!」
ハナが向かいのカメちゃんに呼び掛ける。カメちゃんはピッと親指を立て位置の微調整をした。
「サキちゃんは真ん中ね!」
「えぇ、なんで」
「どんなポーズがいいかしら〜」
「無難にピースでいいんじゃないか?」
「たまちゃんはしゃがめよ!紅葉が写らないからな!」
「いくよ〜!!ハイ、チーズ!」
ハナの掛け声にカメちゃんが大きくジャンプして、シャッターを切った。
「ちょ、ちょっと待ってよ!いま目をつぶった!」
サキが年甲斐にもなくハナに文句を言う。
ハナは噴き出して、あはは、とおなかを抱えて笑った。
「じゃあ、もう一回!」
そうして全員が納得がいくまで何度も何度も撮り直していった。
紅葉はその間にも落ち続けた。しかし、それは絶えることを知らず、いつまでも祝福するかのようにツクモ狩り部の写真に彩りを添えていた。




