↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/80

誕生

 ハナは食事もろくに手を付けなかった。

 ただ泣きはらした目で用意された料理の辺りを見つめ続けている。

 具材取り合うユカとルカの戯れも、今日はなんだか空空しくて、取り繕っているような気がする。

 ノアは甲斐甲斐しくお酌に周っているが、気持ちを紛らわせるためなのだろうか。

 サキは、ずっとハナを見ていた。

 出棺後、しばらく同席者の宴があって、係の鬼が呼びにきた。

「ハナ、立てるか?」

 ユカが気遣うように手を置く。

「うん……」

 ゆっくりと立ち上がる。脚に力が入らなかったのか、何度かふらついていた。

 火葬場に戻る。

 そこには知らない鬼の夫婦が先に居た。祖父とハナの姿を認めると、何も言わず深々とお辞儀をした。沈痛な面持ちだが、その決意したような表情には、どこか喜びが滲んでいるようにも思える。


 ああ、この夫婦が、新しい家族なんだ。


 ちらりとハナを見やる。

 ハナは祖父と共におずおずとお辞儀を返す。

 係の鬼が炉の扉を開けた。冷えてから時間がだいぶ経ってはいたが、濛々とした陽炎が揺らいでいるのがわかる。

 棚を引き出す。

 積もった灰。

 その上に、いた。

 白玉のような肌。

 柔らかい手足。

 閉じられた瞼。

 生えかけの角。

 赤ん坊。

 係員が慣れた手つきで抱きかかえると、準備してあった水桶で身体を洗った。

 冷たさに赤ん坊が、えぐ、と一声。

 そして、泣いた。

 泣く、大きく。

 おぎゃあ、と。

 何がそんなに悲しいのか。涙を流して、口を大きく開けて。

 何がそんなに悲しいのか。鬼の目にも涙。

 手際よくおくるみに包まれた泣きん坊を、係員がハナに手渡した。

 戸惑うように抱き寄せる。ゆさゆさとあやすように揺らす。

「よ、よしよし……」

 と、穏やかに静かに声を掛ける。

 次第に泣き声は止み、泣き疲れたのか寝息に変わっていった。

 ハナはしばらくその寝顔を眺めていた。

「かわいい……」

 そう、呟き、嬉しそうに微笑んだ。

 慈愛というか、なんというか、母親のような眼差し。

 なぜか、サキの心がざわついた。懐かしさが、どっと、堰を切る。


 母さん――。


 遠く記憶の底に沈めたはずの母の顔。もう思い出せない、いや、もう思い出さないと誓ったはずの表情が、今、目の前にあった。ハナの姿が、ぼやけて滲む。影と影が二重になって、記憶が重なる。

 はっと、気づくと、ハナは至極真面目な顔をして、夫婦に向き直っていた。

「この子をよろしくお願いいたします」

 そうお辞儀をして、手渡した。

 夫婦は大事に抱きかかえた。

「はい、絶対に優しくて温かい子に育てます」

 係員が案内して、夫婦は背を向けて別室へ向かう。これから改めて諸々の手続きを行うのだろう。二人は赤子をあやしながら笑顔で、これ以上にないくらい幸せそうに、火葬場を後にした。

「またね」

 ハナが小さく手を振った。

 紅葉が美しく色づく、そんな秋の始まりだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。