誕生
ハナは食事もろくに手を付けなかった。
ただ泣きはらした目で用意された料理の辺りを見つめ続けている。
具材取り合うユカとルカの戯れも、今日はなんだか空空しくて、取り繕っているような気がする。
ノアは甲斐甲斐しくお酌に周っているが、気持ちを紛らわせるためなのだろうか。
サキは、ずっとハナを見ていた。
出棺後、しばらく同席者の宴があって、係の鬼が呼びにきた。
「ハナ、立てるか?」
ユカが気遣うように手を置く。
「うん……」
ゆっくりと立ち上がる。脚に力が入らなかったのか、何度かふらついていた。
火葬場に戻る。
そこには知らない鬼の夫婦が先に居た。祖父とハナの姿を認めると、何も言わず深々とお辞儀をした。沈痛な面持ちだが、その決意したような表情には、どこか喜びが滲んでいるようにも思える。
ああ、この夫婦が、新しい家族なんだ。
ちらりとハナを見やる。
ハナは祖父と共におずおずとお辞儀を返す。
係の鬼が炉の扉を開けた。冷えてから時間がだいぶ経ってはいたが、濛々とした陽炎が揺らいでいるのがわかる。
棚を引き出す。
積もった灰。
その上に、いた。
白玉のような肌。
柔らかい手足。
閉じられた瞼。
生えかけの角。
赤ん坊。
係員が慣れた手つきで抱きかかえると、準備してあった水桶で身体を洗った。
冷たさに赤ん坊が、えぐ、と一声。
そして、泣いた。
泣く、大きく。
おぎゃあ、と。
何がそんなに悲しいのか。涙を流して、口を大きく開けて。
何がそんなに悲しいのか。鬼の目にも涙。
手際よくおくるみに包まれた泣きん坊を、係員がハナに手渡した。
戸惑うように抱き寄せる。ゆさゆさとあやすように揺らす。
「よ、よしよし……」
と、穏やかに静かに声を掛ける。
次第に泣き声は止み、泣き疲れたのか寝息に変わっていった。
ハナはしばらくその寝顔を眺めていた。
「かわいい……」
そう、呟き、嬉しそうに微笑んだ。
慈愛というか、なんというか、母親のような眼差し。
なぜか、サキの心がざわついた。懐かしさが、どっと、堰を切る。
母さん――。
遠く記憶の底に沈めたはずの母の顔。もう思い出せない、いや、もう思い出さないと誓ったはずの表情が、今、目の前にあった。ハナの姿が、ぼやけて滲む。影と影が二重になって、記憶が重なる。
はっと、気づくと、ハナは至極真面目な顔をして、夫婦に向き直っていた。
「この子をよろしくお願いいたします」
そうお辞儀をして、手渡した。
夫婦は大事に抱きかかえた。
「はい、絶対に優しくて温かい子に育てます」
係員が案内して、夫婦は背を向けて別室へ向かう。これから改めて諸々の手続きを行うのだろう。二人は赤子をあやしながら笑顔で、これ以上にないくらい幸せそうに、火葬場を後にした。
「またね」
ハナが小さく手を振った。
紅葉が美しく色づく、そんな秋の始まりだった。




