↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/82

暗闇

 ――蝋燭の灯り。橙火が揺らぐ。心許なく周囲狭く舐めるに留まる。

 暗闇は底深く鎮座して、一帯に空間が広がっていることを滲み示している。

 鋼鉄の床の中心に、畳が敷かれている。豪奢な洋椅子とアンティーク調の丸机。

 人影が身を崩して座っていた。粉飾された蝋燭立てから漏れる光を、朱き双角がヌメリと反射する。黒髪は艷やかに、白肌は柔らかく。紅い視線を儚げに洋書に注いでいた。

「何か用かい、晴明」

 鬼は目は伏せたまま、ページめくる手だけを止めて、暗闇に訊ねた。その声は中性的なアルト。穏やかで、優しく、しかし、どこか蠱惑的な笑みを含んでいた。

「⋯⋯」

 深い皺刻まれた老人の顔が、闇から這い出すように現れた。灯火に塗られた陰は深く、翁の能面のような老獪さをまざまざと知らしめる。頭髪は無いに等しいが、口元と顎を覆う白髭だけは良く手入れをされて密に編まれている。

 粘ついた唾液を押し開くように音をひとつ立て、たおやかな髭の内で乾いた唇をもごもごと動かした。

「呪札の数が合わんのだ」

 一言。しゃがれ、捻じくれた掠れ声で告げた。そこには戒めるような色を含んでいるのは確かだった。

 鬼は、ちらりと双眸を老人に向けた。澄み切った虹彩の奥が見える。だが、その底は赤と朱と紅に濁濁として色味は判然としない。

「知らないよ」

 そう言って、再び、本へと注意を向ける。

 老人は、ふん、と鼻を鳴らした。

「よからぬこと、考えるなよ」

 鬼は、老人の真似をした。ふん、とひとつ。

「結界に囚われの身で、どうやって」

 老人は答えず、すっ、と黒に消えていった。

 鬼は独り残され、ページを進める。ただ、淡々と紙が擦れる音、蝋が燃え尽きていく音だけが響いた。

 鬼の口元は僅かに上がっていたのは、陰が見せる錯覚だったろうか。

 いつまでも判然としない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。