夏の職員室
「経費報告書と活動報告書、それから部員名簿。あと備品台帳ね~」
「なんで私が……?」
大江のデスクは書類にファイル、小物類がざっくばらんに積み重なり、筆の置き場もないくらいだった。職員室に一台しかない扇風機の風にあおられて、紙面の角がパタパタと音を立てる。うちわをゆらゆらと仰ぐ彼女は、話を聞きに来たサキにツクモ狩り部の部活動事務書類の作成を依頼していた。
「一番きっちりしてそうだから」
「そういうのルカの担当じゃないの?ってゆうか入部したつもりないんだけど」
「いいじゃん暇そうだし」
「嫌だ」
ため息をついて立ち去ろうとする。
「おやぁ~」
背後でにやりと大江が笑う。
変な怖気がして振り返ると、大江はいつの間にかサキのギターケースを持ち上げていた。
「学校に学業に不必要なもの、しかも危険物を持ち込んでいるのは、どこの誰かなぁ~?」
「脅迫よ、それ」
反論しながらも、大江の素早さにうすら寒い気がして顔が引きつった。
「じゃあ、これ、よろしくね~」
無理やりに書類の束を渡される。
「わかったわよ……、やればいいんでしょ、やれば」
仕方なく引き受ける。
腕に乗せられた紙面に、ふと視線を落とす。そこに部員たちのファイルも入っている。
先頭は黄島乃愛のものだった。
名前、住所、連絡先、その他の個人情報が古文の文字ような美しい流れで綴られている。大江は適当な性格の割に達筆でマメらしい。理科教師なのに。
——あれ?
「1年生?」
サキは書かれた文面に訝しむ。
てっきり、同じ学年だと思っていた。謎の落ち着きよう、包容力、なによりハナたちとものすごく仲がいい様子で、たった数カ月で築けた関係ではないように思えた。
「ああ、それね。やっぱ気になる?」
大江が、ぎし、とオフィスチェアを回転させて向き直る。
「彼女、留年してるんよ」
「留年?のんびりしているけどそんなに、不真面目な生徒には見えないわ」
人は、いや、鬼は見かけによらないのだろう。おっとりした微笑みの裏に不良生徒としての一面もあるのかもしれない。
大江は深く嘆息した。
「大きな事故にあってね、1年間の入院生活だったんだ」
「大きな事故……」
言葉に詰まる。先ほど不謹慎な考えがよぎったこと、申し訳なく、そして、恥ずかしい気がして、紙を握る力が強まる。
「ま、この話は置いといて。改めて書類、よろしくねぇ」
欠伸混じりの間延びした句を継いで、ひらひらと手を振った。
「あ、家の鍵締めた?」
「締めたわよ」
夏の朝はこうして過ぎていく。




