黒川早紀の朝
「暑い……」
そう呟いてサキは目を覚ました。
カーテンから漏れ出る光はとてつもなく強く、痛く、眩しすぎた。
夏。誰がなんと言おうが、初夏過ぎて夏。
冷房のため閉め切った窓の外から、それでもセミのじりじりと追い立てるような斉唱が聞こえてくる。壁掛のデジタル温度計は28℃を示している。
傍らで寝伏せていた黒猫が、ふぁ、と欠伸をひとつ。
その背中を撫でながら、そろそろ一緒に寝るのは毛が暑いかも知れないと思うのだった。
起き上がり、ぐっと伸びをする。味気ない寝下着には汗がじっとりと滲んで色を変えている。
彼女がベッドから降りると、気配を察した黒猫が同じく、ついていくように飛び降りた。
階下に降りる。
まずは水で洗顔。次に歯磨き。
黒猫、もとい、クロに餌やり。カリカリと小気味よい咀嚼音をBGMにして、肌に纏わりつく濡れ衣を着替えた。
リビングへ。
「またいない……」
同居人はもう出かけたようだ。
いつものように、同居人によって放置された大量の酒の空き缶をゴミ袋に突っ込む。
そのままの流れで台所にて一人分のトーストを準備して、頬張る。
「ごちそうさまでした」
食に感謝。
で、時刻は7時10分。朝のホームルームには、まだまだ間に合う時間帯。
そういえば、と昨日、大江から話があると聞いていた。
面倒事は早めに済ませてしまおう。
そう考えて、今日は早めに家を出た。
ギターケースに、赤いマフラー。どちらも夏には重いし、暑いが、大切なものなので仕方がない。制服が夏服に変わったのが少し嬉しいところだ。
「いってきます」
見送りに来たクロに軽く手を振ると、玄関の扉を閉めた。
桜家の朝とは正反対の、静かで効率的な朝模様だった。




