↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/82

繋がる

 ところ変わって、桜家。

 机の上で、ピロリんとスマホが鳴る。

 どうやらSNSの通知のようだ。

 ハナの祖母が台所から声を掛ける。

「おじいさん!ハナからですよ、きっと!」

 祖父がいそいそと取り上げる。老眼鏡をかけ、持ち上げるように目線を合わせる。

 パタパタとやってきた妻がのぞき込んで嬉しそうに声を上げる。

「綺麗な花火の映像ですよ、おじいさん!」

「写真もあるぞ!これがハナのお友達か~!」

「やさしそうなかわいい子たちですねぇ!」

「そうだなぁ」

 そうだ!、と妻は手を叩く。

「こっちも写真を撮って送ってあげましょうよ!」

「えぇ、写真かい?」

「いいから、貸してくださいな」

 パシャリと慣れた様子で、ツーショットの撮影を終えると、ハナへ送信した。

「“たのしんできてね”、っと……」

『うん!』と元気よく、ぺこりのスタンプと共に返信。

「ほっほっほっ、文章でも楽しさが伝わるのぉ」

「そうですねぇ、おじいさん」

「なぁ、ばあさんや」

 出し抜けに夫が至極真面目な調子になる。呼びかける声は何処か寂しげな色を含んでいる。

「やっぱり、ハナに伝えた方がいいんじゃないか?」

「また、その話ですか」

 妻は台所へ逃げるように向かっていく。

「それ以前に、ばあさんの齢じゃ、まだ早いと思うんじゃよ」

「本当はね、おじいさん」

 とんとん、と夕飯の準備を再開しながら背中越しに話す。

「私もハナのお友達の名前すら、段々思い出せなくなっているんですよ。同じお花を買ってきてしまったのもありました」

「だからって、いくらなんでも……」

「今までハナのお陰で幸せな時間をいっぱい過ごせました。子といつか離れてしまうのは、鬼としての宿命だと思っているんです」

「鬼としての宿命……」

 はきはきと話す妻に、もごもごと言いよどむ夫の姿があった。だが、老体に奮起して、喉元から滑らせる。

「だったら、なおさらじゃないか。ハナももう大きい。心構えくらいさせてやるのが、育て親としての恩情じゃろうて」

 ぽりぽりと自らの角を掻きながら、夫は小さい声で話す。

「いいんです。あの子は今、とっても楽しくて幸せな時にいるんですよ。曇らせたくない。彼女の明るい笑顔を最期の時まで見ていたいのです。それに“この笑顔の娘は誰なんだろう”なんて思いたくもありませんからね」

「そうか……」

「そんな悲しい顔をなさらないで、まさか、おじいさんが一番残念がっているんじゃありませんか?」

 見なくてもわかります、と少しからかうように微笑む声。

「そりゃあ……、そうじゃろう……」

 ——長年、連れ添った愛する伴侶。失うのは辛い。

 だが、返す言葉は戯れには応じなかった。ただ悲しく、寂しく、消え入りそうな呟きだった。

「お前の“魂巡り”までもう幾月もないのか……」

 ただただ、泣きそうな声だった。

 夕餉の準備は進む。何事もなく。普段通りの手つきで、温かく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。