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線香花火

「私たちも花火しよー!」

 買い物袋からおもむろに花火セットを取り出すハナ。

「おー!ハナにしては気が利きますなぁ」

「買いに行ってたのってそれだったんだな」

「いいわね~!海の見えるロケーションで、青春の1ページね~」

「ちょっと待って、携帯電話はどうするの?」

 サキはひとり乗る気ではない。今なお山積みに置かれた電子機器類が気になるのだ。

「警察には連絡しておいたから大丈夫だぞ」

「お、ルカさん、仕事が早いっすな~」

「サキちゃんも楽しみましょ~。火種はたまちゃんが作ってくれるから~」

 ノアの言葉に応じるようにたまちゃんが上空へ業火を吐き出す。

「あぶなっ!気を付け——って、ルカがびっくりして気ぃうしなったぁー!」

「あらあら、ごめんなさ~い!!」

「あ、その前に、おばあちゃんたちに連絡するね」

 ハナは和気あいあいの囲みから少し遠ざかる。

 ピンク色のスマホを取り出して、祖父母とのSNSを立ち上げる。

『帰り少し遅くなります。お友達と花火して帰るねー⸜(◍´˘`◍)⸝』

 既読から少し経ち。

『りょうかいだよ、おともだち?』

『そう!ユカちゃん、ルカちゃん、ノアちゃん、サキちゃん!( ꈍᴗꈍ)』

『はーい、たのしんでね』

『スタンプ(クマりょうかい)』

『スタンプ(よくわからないキャラクターおじぎ)』

「これでよし!みんなー、はじめよーう!!」

 ぱたぱたと、みんなの元へ駆け寄った。


 まずは定番のススキ花火。火花がパチパチと広がり、色が変わっていく。勢いが良すぎて少し危ないくらい。振り回しては危険です。でも、両腕に持って走り出すユカ。トンファー花火!なんて言いながら。

「これはなんだ?見たことない花火だな」

「あ、それはね——」

 ハナが説明書を読もうとした時には既にルカの手で着火された。

 グルグルグルグルグルグルッ!!!!

 シュシュシュシュシュシュッ!!!!

 猛烈に回転を始める。火花散らしながら脚の間を通り抜けていく。

「きゅう——」

 あまりの突然の出来事にルカはネズミのような声を出して気を失った。

「あはは、大丈夫かしら~、ルカちゃん」

「ノア!持つとこ逆、逆ぅ!!」

「あらあら~?」

 とんでもない閃光が爆裂した。


「あ、あんたたち、な、なんなの、ほんと」

「サキちゃんが笑ってる!」

 ハナの指摘通り、サキが腹を抱えて笑っていた。涙浮かべ、体をくの字に曲げて、お腹を押さえている。

「わ、わらって、ふふ、わらって、ない!」

 そこまで耐えていたが、ノアがまた爆裂したのを見て、笑いの堰は決壊した。

「サキちゃんもやろうよ、はい!」

「え……?」

 不意に押し付けられる束。突っぱねる暇もなく、ハナはそのうちの一つに火を点けた。

 最初から威勢よく火花を巻き散らす。閃光よりも煙がもうもう視界を覆う。

「わっ、わっ——あっつ!?」

 光の粒が弾け飛んでくる。離さないように持ち続けるのがやっとで、楽しむ暇なんてない。

「あはは、気を付けてー!」

 ハナは大きく笑っていた。

 なんだか、サキも、笑っていた。

 色とりどり、多種多様な花火は彼女の手の中にある。

 次はどれをやろうか。どんなに綺麗だろうか。そんなことを話しながら、点火する。

 肩を寄せ、相手の花火に灯を分け合う。

 なんだか、普通の女子高生みたい——。

 なんて、夜の深紫色の帳で滲むように明滅する明かりを、ぼんやりと眺めながら、そう感じた。

 深い黒の中、硝煙の匂い、炸裂する光。

 ——ふと。

 思い出してしまう。

 暗闇で戦いつづけた日々。

 犬童と茨木のこと。

 みんなの無念。

 ——少し、笑顔が翳る。

 恐怖に怯え、地下で蠢いていたあんな毎日にも、今日のように笑った日はどこかにあったのかもしれない。犬童さんも茨木さんも、いつも険しい顔だけじゃなかった気がする。

 ——だから、少しくらい、楽しんだって、いいよね……?

 自己嫌悪に、哀しく自問自答する。

 しばらくして、手持ちの花火が尽きかけたころ。

「次はこっち」

 ハナが線香花火を持ってくる。

 遠くでみんなが笑いあいふざけ合う中で、顔を突き合わせた。

 ふたりきりの時間。

「この線香花火が、いまここで燃え落ちても」

 ハナは真剣な表情をしていた。

「きっと忘れないよ」

 灯火に照らされて、その横顔はどこか哀しげだった。

 ――なぜ?

 サキは、そんな急な変わりように心配になった。

 ――なぜ、この子は、こんなにも思い出に拘っているだろう。


 まるで――。


「だって、こんなに眩しいんだもん」

 瞼を閉じてみてと、ハナが微笑む。

 サキは言われるがままに瞼を閉じた。

 ……。

 ……。

 ……見えた。

 暗闇の中で、眩しく光り続ける線香花火の像が、ずっとずっと。

「ばっかみたい」

 サキは泣いていた。笑いながら、泣いていた。

 


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