電波塔
古い携帯電話のツクモガミたちが、盗んだスマホを抱えて走る。
並木沿いを走り、猫横丁を進み、住宅街を抜け、空き地を通り過ぎ、海辺沿いを駆ける。
通りを過ぎる度に、数々の悲鳴と共に別々の群れが合流し、その数はどんどん増していく。小さな身体のどこに、こんな胆力があるのだろう。勢いは弱まらず、一向に速度を落とす気配がない。赤いマフラーをなびかせて疾駆するサキすらも追いつけない。
どこへ行くんだろう?
ハナたちは鬼気迫るサキの背中を見ながらツクモガミたちの後を追いかけていく。
舗装された道路を外れて、草原を走る。道すがらに何事かと隊列に振り返る鬼たちは、次第に見られなくなっていった。
辿り着いたのは高い高い電波塔のひとつ。
通信ケーブルは取り外され、どこにも接続していない様子。フェンスは破れ、もはや侵入を阻む役割を為していない。海風に長い間さらされ続けたに違いなく、赤錆がびっしりと表面を覆っている。誰かがどう見ても、廃棄された電波塔であった。
その基部。のっぽの鉄塔の足元には液晶と電子の山が築かれていた。
ツクモガミたちが盗んだ携帯電話を山にぽいぽいと投げ積んでいく。もちろん中には限定フレーバーの予約画面を映したままのスマホも含まれている。
「あーッ!?」
サキが叫ぶ。
「ちょっと、私のスマホ!どこかわからなくなっちゃったじゃないッ!」
山に飛び込み、掻き分ける。誰か、鳴らして!と焦る。
「まぁまぁ」
「そのうち出てくるだろう」
とユカとルカがなだめる。
「元気出して〜サキちゃん。お茶菓子でも食べて」
とノアがドーナツを差し出した。
バターと油の匂いにサキが振り返った。
「ドーナツ!?限定20食の!?」
「ふふふ〜、機械音痴の店長さんとは、ちょっとした知り合いなのよね〜」
油ぎった輪っかが、サキには黄金色に輝いて見えた。
彼女はノアに跳びかかり、菓子を頬張る。
美味い。甘い。堪らない。
「ほ~ら、もう一個どうぞ~」
「い、いいのッ!?」
すり寄るようにもう一個をねだっている。
その様子をユカルカ幼馴染コンビが呆れて見ていた。
「サキのお尻にしっぽが見えた気がしたぜ」
「同じく、……どーなつだけに、どーなっつてんの、なんちゃって……」
ハナだけはツクモガミたちをじっと見つめていた。
隠し場所をバレたツクモガミたちがアンテナ伸ばし、そしてぷるぷると揺らして抵抗の意志を見せている。
「この子たち、寂しいんだよ」
ハナがその一体に近づき、腕に抱えた。暴れも反抗も虚しく、おとなしく女生徒の胸元に収まる。
「昔は、どこへ行くのも一緒だった。みんなメールで心を送り合って、返信を待ち焦がれるように握り締めて。ずっと見てくれてた、話しかけてくれてた」
だけど、と。
「もう、必要ないって。もう、誰も自分たちを見てくれないって」
「なんでそこまでわかるのよ」
サキが三つ目のドーナツをもぐもぐしながら訝しむ。
「だって、みんなそう言ってるから」
悲しく微笑み、ツクモガミを前に出す。
液晶に打ち込まれながらも、元の所有者には届かなかった文章がそこにはあった。
『寂しい』
『悲しい』
『いつ帰ってくるの?』
『楽しかったのに』
『思い出の写真まだあるよ』
『辛いよ』
ツクモガミが何かに反応したかのようにぞろぞろとハナの周りに集まってくる。
「だからって迷惑かけていいわけじゃない。無関係な人だっている」
現に私のように、とサキが反論する。
「そうだね、また見て欲しかったからって、いけないことだよ」
だから、とハナは決心する。
しゃがみ込み、ツクモガミたちに微笑みかける。
私に任せてね。




