言い訳
「さて、どうするかコイツ」
ユカが腰に手を当てる。
雨は上がっていた。
まだ湿っている空き地にて、傘のツクモガミが土管に縛り付けられている。
諦めきれないのか、ワイヤーでぐるぐるにされた中でもバサバサと抵抗の動きを見せている。
「ひと思いに介錯してやるか」
ルカが竹刀を光らせる。その白刃には、めちゃくちゃな追跡劇に無駄に付き合わされた怒りがこもっている気がする。
「バ、バサバサ!」
驚くように開閉を繰り返す。
ハナはオバケ傘にしゃがみ込んでいたが、困ったように眉をひそめた。
「なんだか、かわいそうな気もするけど……みんなに迷惑かけたし、仕方ないよね」
「バサ!?」
あんたまで!?、と言わんばかりに音を立てる。
「決まりね」
サキが冷たい視線をツクモガミに投げかける。だいぶ恨みがこもっている。
「バサバサ!バサバサバサ!!」
慌てふためく唐傘を無視して、サキとルカが得物構えて近付く。ゆっくり、しっかり、歩み進む。陰に隠れて表情は伺い知れないが、眼光だけが、きらり、と光っていた。
「ちょっと待って~、みんな!」
ノアが殺意の波動に呑まれたサキ&ルカを呼び止めた。
「どうしたの、ノアちゃん?」
「このツクモガミさん何か伝えたがっているみたい~」
「バサ!バサ!」
「でもツクモガミの考えていることなんて分からないし……」
「ここは、たまちゃんに任せて~」
ノアがたまちゃんと顔を突き合わせる。カメラアイの点滅を読む。うんうん、と相槌を繰り返し、そして元気よく言った。
「ちょっと待ってくれ、盗んだ傘は全部返す、だから命だけは助けてくれ、ですって!」
「なんだその能力!?」
ユカがたまげる。
「たまちゃんのモールス信号よ〜」
「便利だなぁ」
ハナはどこか冷静だった。
「バサバサバサ」
「私は濡れたくないという鬼の感情から生まれた。だから、鬼たちが濡れないためにはもっともっと大きくなって街を包んでしまおうと考えたのだ、ですって」
「バサバサ」
「鬼に捨てられた当初、私は小さく弱い存在だった。だが、同じく捨てられた同志たちに残る僅かな鬼力を寄せ集めることによってここまで強くなったのだ!ですって」
「すげぇな、ノア」
「バサ……」
「お前たちも濡れたくないだろう?私の計画を手助けしてはくれないか、そうすれば雨に困ることは永遠になくなるぞ!ですって」
ノアの言葉に一同が顔を見合わせる。
ぽたぽたと雫が毛先や衣服から滴り落ち、学生靴の底もぐずぐずで気持ち悪い。生乾きの臭いが少しだけ鼻を突いた。
「まぁ⋯⋯確かに、雨は嫌だなぁ」
ユカが呟いて、天空を見やる。雨は上がったが黒灰色の雲は重く垂れ込め、いつまた降り出すかも分からない。もしここに覆いがあったら、なんて想像してみる。
「街をビニール傘で覆うなんて、絶対、駄目だよ!」
ハナの一声が皆の妄想を断ち切った。
一同がハナに注目する。
彼女はふんふんと鼻を鳴らし、両の拳握り締めてツクモガミに迫った。
「そんなことしたら、農家の方々が困っちゃう!あと温室効果とか、地球温暖化とか、スモッグとか、いま凄いんだよ!」
「社会の成績いいもんな、ハナ」
「あ、あとあと、ドーナツ化現象とか、ヒートショック現象とか、釣鐘型人口とかぁ!」
「あ、これ知ってる単語並べてるだけだ」
「じゃあ、どうする?」
サキの一言に、ハナすら沈黙した。
ぽたぽた。
雫がリズム刻む音だけが辺りに響く。
自動車が1台、通りを水飛沫を上げて走り去っていった。
沈黙、静寂。
なんだか気まずい雰囲気。
ハナがぼそっと呟いた。
「……傘なんだから、傘として使えばいいんじゃない?」
「⋯⋯え?」
「⋯⋯バサ?」




