クソデカ招きネコ
「サキちゃん、ありがとう⋯⋯!」
「⋯⋯」
ハナが礼を言ってもサキは無言だった。
ただ巨大な招きネコの様子を伺っているようだ。
向こう側ではルカたちがそれぞれの得物を構えだし、じりじりとにじり寄っているようだ。
招きネコは動かない。そればかりか、注意は完全にルカの光る竹刀に向けられているようだ。
——先制攻撃、やれる。
サキは一気に動いた。出し抜けに接近。両刀振り上げ、振り下ろす。
が、巨眼の一瞥。
招きネコはそれよりも速く反応した。
身を大きく転じ、跳躍。中空へと、避けた。
「なっ——!?」
巨体に似合わぬ俊敏さ。驚愕に顔を振り上げる。
「なぁーご!!」
咆哮。そして、投擲。
巨大な小判。眼前に迫る。
サキは両刀を交差させた。
衝撃。
圧。
踏みしめた地面に亀裂。
遅れて、轟音。
「サキちゃん!!」
ハナの叫びは再びの砂煙に消える。サキの影すら判別できぬほどの舞い上がりに、戦闘の啖呵が切られた。
先火はノア。中空の巨体に即座に3発、射撃。鬼力込められたプラスチック弾は円錐型に形を変えて、その貫徹力を強めていた。空気を切り裂き、火花の線となってツクモガミへと迫る。
「なぁご!」
低くひと鳴き。掲げられた前脚が素早く振り下ろされ、そして翻す。
弾が弾き返された。
「あらあら〜!」
返しがノアに迫る。たまちゃんが庇う。鋼鉄の表皮で金属音が弾ける。
「このっ!」
ユカとルカが、静音で着地した化け招きネコに突貫する。一方は、トンファーを、もう一方は光る刃を以て振り被る。
だが、招きネコは咄嗟に後退、避ける。そして即座に位置を戻し、前脚の肉球をユカに叩きつけた。
トンファーで防ぐ。
「ぐっ⋯⋯!」
圧撃。身体が大地に押しこめられる。
固い。重い。
そして、なによりも、鋭い。
拳が開いた。飛び出す鋭長な猫爪。
不意に、圧す力が弱まった。化けネコが軽く腕を引いたのだ。
「まずいっ!」
予感。ユカが一瞬の隙に横合いへと転がる。
一閃。
大地が割れる。
爪が地盤を掻き切った。
飛沫が飛び散る。ユカへ飛ぶその瓦礫を、遠方からノアが撃ち落とす。
だが、第二撃。返す刃。クソデカが突き立てた爪を横薙ぎにユカへと繰り出した。
防御は間に合わない。
「ぐっ——!」
思わず目を瞑る。痛い——。
かち合う金属音。
——痛くない。
目を開ける。
「サキっ!」
赤のマフラーがたなびき、両刀と猫爪が鍔迫り合う。
「このクソデカ招きネコめッ!!」
サキが叫びながら力を込めた。
弾き返す。巨体が浮く。
「ユカッ!」
「合点!」
サキの合図にすかさず応じる。
体勢を即座に直し、一気に踏み込む。地を蹴飛ばす。
「トンファーキック!!」
直撃。
桃色の鼻っぷしに蹴りつけがぶち当たった。
「んなぁご!」
痛みに吠えて後方へ仰け反る。そのまま背中から、ごろごろと転がる。
三度、砂埃が大きく舞い上がる。
「ハナッ!猫たちを頼むぞ!」
ルカが巨体を追いかけながら土管付近にいるハナへと叫ぶ。
「わ、わかった!」
見守ったまま身体を固くしていたハナはルカの呼びかけにビクリと身体を揺らしたかと思うと、即座に振り返り、猫たちの元へと急ぐ。
「大丈夫だよ、みんな、怖くないよ」
見上げる瞳の数々に優しく声をかけ、しゃがみ込む。
意外にもどの猫も落ち着きをはらっていた。
欠伸、毛繕い、ヘソ天、ごろ寝、そして、一匹がすりんとハナの手のひらに擦り寄った。
「え、えぇ?」
背後では凄まじい戦闘の音が響き渡っている。熾烈を極めているのは、もはや見なくともわかる。
おかしいな、そんな呟きをしながら改めて猫たちを見回す。
段ボールとタオルに包まれて母猫が子猫たちに乳をあげている。一方で、包帯を巻かれた猫が大人しく寝転んでいる。そして、大量の鉄製ボウルの数々には、水と餌が潤沢に盛られていた。
「も、もしかして——」
カメちゃん!、とハナは自分の友達の名を呼ぶ。カメちゃんは「ピッ」と音を出して、ひょこと頭の上から彼女の手のひらに移動した。
ハナは振り返り、カメちゃんを構えた。ファインダーを覗き、未だ戦いの最中にあるクソデカ招きネコにピントを合わせた。
カシャ——。
ブレた。もう一回。
カシャ——。
サキの、どアップ。もう一回。
カシャ——。
「撮れた!」
カメちゃんがジーッと写真を吐き出す。
それをハナは慎重に大事そうに、抱き締めるように、受け取る。
写真を見る。
そこには——。
「やっぱりだよ!カメちゃん!」
不安げな表情だったハナは、満面の笑みに変わった。




