張り込み
——見張り開始から、数十分後。
猫は魚屋の前で寝転び、腹を空に向けている。魚のおこぼれを貰って満腹になったのか、どこか満足げというか得意げな様子で手足を伸ばしきっている。時折ぴくっと片耳を動かすものの、今のところ何の動きもない。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
電柱の陰に4人。こちらもまた微動だにせず、ずーっと押し黙ったままである。当初は食い入るように見張っていたハナだが、次第に間延びした欠伸をする程度には飽き始めていた。
「⋯⋯平和だね」
「⋯⋯ああ、そうだな」
ルカもまた肩の力が抜けきっている。
「⋯⋯猫さん可愛いわね〜」
ノアはいつも通りだ。
「⋯⋯てゆうかっ!」
小声で会話している中、ユカが電柱から飛び出す。
「狭いんだよっ!たまちゃん、カメちゃんまで隠れる必要ありますかっ!?」
「しーっ!」
3人、と2体がユカを宥める。
電柱の陰にはユカの指摘通り、下から付け髭をつけたハナ、ハンチング帽のルカ、サングラスをかけたノア、カツラを被ったカメちゃん、マントを着たたまちゃんが、ぎちぎちと収まっていた。
「大体、変装のクオリティが低すぎるだろっ!」
「えー?でもバレてないよ」
「何やってんの、アンタたち⋯⋯」
背後から声がかかる。
みんなが振り返る。
そこにいたのは学校指定のブレザーを着た黒川サキ。ギターケースとマフラーは依然として身に着けていたものの、半欠けのドーナツから口を離して呆然とこちらを見つめている。
「サキちゃーん!!」
たまらなくハナが飛び出す。サキに飛びかかる。
「ちょ、待っ——」
そのまま抱き潰さんと腕を回す。
サキは華麗、とは言い難い泥臭さでハナの頬を押し留める。顔が近い。鼻息が顔にかかる。
「やめろっ!コイツっ!」
「サキちゃんも手伝ってくれるよねっ!?」
「何の話よ!?嫌よっ、意味わかんない!」
「手伝ってくれるよねっ!?」
「何なのこいつ!!」
押し問答がしばらく続く。押しの強さに思わずドーナツをハナの口に突っ込んで黙らせる。
「サキちゃんも手伝ってくれると嬉しいわね〜」
ノアがその背後から微笑む。
サキの視線がちらりと向く。
「はぁ、ノアまで——ぐっ⋯⋯!?」
「いっぱいお土産貰っちゃって、いっしょに食べてくれると嬉しいのよ〜」
茶菓子の箱を抱えてニコニコ。
ゴクリ——。
思わずサキが固唾を飲む。有名な銘柄の和菓子の数々。食べてみたい⋯⋯かも。
「わかった!わかったわよ!!」
サキが折れる。ユカとルカはやれやれと溜息を吐いて迎える。
対してハナは。
「サキちゃーん!ありがとー!大好きー!」
「わかったから離れて!!」
更に抱き締める力を強めるのだった。




