↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/83

現場百回

 商店街のあちこちと連絡先の住宅を駆け回り、ツクモ狩り部は片っ端から聞き込みを続けていた。

 ハナは魚屋の店主に話を聞いていた。

「猫がいなくなったときのこと、何か覚えてないかな」

「ちょくちょく世話してた三毛猫なんだけど、いつの間にか来なくなってたなぁ」

「何か予兆とかはなかった?」

「うーん……」

「なんでもいいので!」

「そういや、いなくなる少し前あたりから何だか足を引きずっていたような気がするんだよね。見た目にはなんの怪我も無かったけど、痛かったのかなぁ?」

「なるほど。怪我をしていた可能性だねっ!ありがとう、おじちゃん!」

 可愛いシールでふんだんに装飾されたメモ帳に丸っこい文字で書き込んでいく。

『さらわれたネコちゃんは、ケガしてた?』


 別の住宅ではルカが飼い主に聞き込みをしている。

「鳴き声とかは?」

「それがねぇ。誰かに攫われたなら、普通は騒ぐでしょう?」

「そうですね」

「なのに、鳴き声ひとつ聞こえなかったんだよ」

「なるほど……他には?」

「そういや、最近夜になると、なぁーご、てやけに大きくて低い声の鳴き声が聞こえててねぇ、でっかい猫がどっかにいるんだなぁって……」

「なぁーご?」

 ルカが手帳へ丁寧に書き込んでいく。

『猫は騒がなかった』

『大きくて低い鳴き声:なぁーご』


「よーし、小坊主ども!探偵ごっこといこうじゃないか」

 ユカは駄菓子屋の軒先で地元の子供たちを集めて、きなこ棒を振る舞っていた。

「あーちゃん、見たよー。目の前でミィちゃんいなくなったの」

 鼻たれの幼い少女が手を上げる。

「おっ!その時なんか見なかったか?」

「なんかねー、ご飯あげてたらね、急に真っ暗になったの。明るくなったと思ったら、ミィちゃんいなくなっちゃった」

 得意げに間延びした返答を返す。飼い猫がいなくなったというのに、まるで事情が分かっていないという感じだ。

「おお!あーちゃん、でかしたぞ!有力な情報だ!」

 ユカがプリントの裏にぶっとい油性ペンで殴り書く。

『クソデカい影!!』

 ふんふん、と思案するユカに、素朴な質問が投げかけられる。

「ミィちゃん、いつになったら帰ってくるのー?」

「うーん」

 ユカが答えに窮する。だが、素早く笑顔に変えて、元気よく返す。

「もうすぐで帰ってくるぞーっ!おやつ準備して待っててな!」

「うん!」

 3人はいったん近場の公園に集合し、メモを突き合わせて情報をまとめてみる。

 断片的な証言ばかりだった。

 怪我をしていた猫がいた可能性。

 鳴き声を上げることなく突然いなくなった。

 なぁーご、と低い猫の鳴き声が聞こえた。

 大きな影が通り過ぎていった。

 聞き込みの甲斐あってか、近頃、猫横丁で起こっていた異変の数々が一本の線にまとまっていく。猫という観点から見れば、いずれも猫を攫うという一点にだいぶ特化した所業であることが分かった。

 だが、肝心の正体も、猫たちの行方も、一向に分からない。

「うーん……」

 ユカが腕を組んで唸る。

「手がかりはあるのに、犯人だけがいない……」

「事件としては、かなり厄介だな。あと文字が汚い」

 ルカもプリントのクソデカ文字を眺めながら眉を寄せる。

「あ、ノアちゃーん」

 ハナが出し抜けに手を振る。

「ごめんなさ~い!遅くなっちゃったわ~」

 たまちゃんの歩く震動で左右に揺れながら、微笑みたたえたノアがやってくる。

「なんかいっぱいお土産貰ってんな」

「そうなのよ~、お話しが盛り上がっちゃってね~」

 ユカの呆れた呟きに正しく、たまちゃんの荷台には野菜やクーラーボックス、果物、お菓子の箱などが満載されていた。これもひとえにノアの人徳がなせる業なのだろうか。

「それで猫たちの行方について何か収穫はあったか?」

 目を輝かせるハナを尻目にルカが冷静に訊ねる。

 まっ、と開いた口に手を当ててノアが驚くように声を上げた。

「ごめんなさ~い、忘れてたわ~」

「お土産貰ってきただけっ!!」

 ユカがオーバーにのけぞる。

「まぁ、私たちも同じようなものだろう……まったく犯人の見当がつかないな」

 ルカは軽く頭を抱える。

 そのときだった。

「……あ」

 ハナがふと顔を上げた。

 少し離れたところを、一匹の野良猫が歩いている。

 黒一色の毛並み。

 尻尾をゆらゆら揺らしながら、何食わぬ顔でここは自分の庭だと言わんばかりに商店街を闊歩していた。いつもの巡回ですけど?、といった風貌だ。

「そうだよ!」

 ハナがぱっと表情を輝かせる。

「どうした?」

 覗き込むルカ。

「あの子!」

 ハナが猫を指差す。

「あの猫ちゃんを張り込みしよう!」

「……は?」

 ユカが目を丸くする。

「張り込みでございますか?」

「うん!この子をずぅーーっ」

 ハナはためにためて、伸ばしに伸ばして、息継ぎをすることなく、体をくの字に曲げて肺から空気の全てを出し切る。その最中、他3人が互いに顔を見渡す。

「っっと、み、見てたら、はぁ、はぁ⋯⋯」

 荒い呼吸。他3人がまたも互いに顔を見渡す。ハナはがばっと顔を上げ、声を張った。

「犯人が来るかもしれないよ!」

「えぇー!やだよー!」

 ユカが即座に反論する。

「なるほど……」

 ルカが少し考える。

「確かに、犯人が猫を狙っているなら可能性はある」

「でしょー!」

「ルカさん!?マジで仰っております?」

 ユカが縋りつくも、ルカは言い出しっぺはお前だろと弾き返した。

「じゃあ、張り込み開始ーっ!」

「探偵さんみたいね〜」

「へーい」

「コラ、きちんとする!」

 張り込みが始まった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。