第4話。ただいまと言い合える場所
第4話。ただいまと言い合える場所
眩しい紫色の光が消え、ハッと目を開けると、私は自宅のベランダに立っていた。
時計の針は、先ほどと変わらず午後6時を指している。
外の景色を見ると、相変わらずオレンジ色の空から、黄昏時をすっ飛ばして、不自然に真っ黒な夜へと切り替わろうとしていた。
「現実の世界で、私の『今』を誰かと分かち合う……」
朝日くんと夕日ちゃんに言われた言葉を呟きながら、私はポケットの懐中時計を握りしめた。
文字盤はかすかに点滅し、エネルギーを求めているように震えている。
私はお母さんがいなくなってから、ずっと一人で、自分の殻に閉じこもって生きてきた。でも、お母さんから「今を大切に楽しんで」と言われてから、私は会社の仕事にも、ある「大切な想い」を込めるようになっていた。
ちょうど明日、私がデザインを担当した新しい街の公園がオープンするのだ。
私はその公園の真ん中に、一つの大きな「ベンチ」をデザインした。
それは、お母さんと一緒に夕日を見た高台の公園をイメージした、綺麗なオレンジ色と紫色が混ざり合うグラデーションのベンチだった。
(そうだ……。あそこなら、誰かと『今』を分かち合えるかもしれない)
私は思わず家を飛び出し、夜の帳が下りる街を走り抜けて、完成したばかりの新しい公園へと向かった。
夜の公園に到着すると、そこにはまだオープン前だというのに、一組の親子がベンチに座って寄り添っていた。
小さな女の子が、お母さんの服の裾をきゅっと引っ張っている。
「ねぇ、お母さん。朝日さんはどこへ行ったの? 夕日さんはどこから昇ってくるの?」
ハッと息をのんだ。
あの幼い頃の私と、全く同じ疑問。
女の子のお母さんは優しく微笑んで、娘の両手を包み込んだ。
「朝日さんはね、遠い国の子たちを温めに行っているのよ。そして夕日さんはね、あの綺麗なベンチと同じ色の、夕日の国から旅をしてやってくるの」
「ベンチと同じ色? じゃあ、このベンチで待っていたら、朝日さんと夕日さんに会える?」
「ええ、きっとね。明日になったら、また『ただいま』って帰ってくるわ。だから、今夜はあのお星様を見ながら、明日のお話をたくさんしましょうね」
「うん! 明日はお母さんと一緒に、砂場でお城を作る!」
二人は顔を見合わせて、本当に楽しそうに、幸せそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、私の胸の奥が、じわっと熱くなった。
私がお母さんから貰った大切な思い出が、私の作ったベンチを通して、いま目の前の新しい親子の「今この瞬間」を、そして「明日へのワクワク」を包み込んでいる。
一人ぼっちだった私の「今」が、デザインを通して、誰かの「今」と確かに分かち合えたのだ。
ドクン……!
ポケットの中の懐中時計が、まるで生き物のように熱く脈打った。
驚いて取り出すと、文字盤から、見たこともないほどに強烈で、透き通ったアメジスト色の光があふれ出した。
親子の笑顔と、私の温かい心が繋がった瞬間。その最高のエネルギーが、懐中時計を通して【ひかりの交差点】へと届いたのだ。
「届いたんだ……! 二人のところに!」
光は公園のベンチを包み込み、夜空の向こうへと、一本の眩しい矢のようにまっすぐ昇っていった。(第4話・おわり)




