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第3話。二人のバトンひとつの願い。

『時をかける交差点 〜夕暮れの迷子〜』


第3話。二人のバトン、一つの願い


アサヒの言葉によって、夕日ちゃんのカバンから溢れていた黒いモヤは、キラキラと輝くアメジスト色の結晶へと姿を変えていった。


「嘘……。あんなに重かった思い出が、こんなに綺麗で温かい光になるなんて……」


夕日ちゃんは信じられないといった様子で、自分の手のひらに載った紫色の結晶を見つめた。

その隣で、ずっと黙って様子を見ていた朝日くんが、ゆっくりと歩み寄ってきた。


「夕日ちゃん……。君がそんなにたくさんの重荷を一人で抱えて走っていたなんて、僕、ちっとも気づかなかった。毎日『早くバトンを渡してよ』って、自分の都合ばかり押し付けて、ごめんね」


朝日くんが申し訳なさそうに頭を下げると、夕日ちゃんは慌てて首を振った。


「ううん、私の方こそごめんなさい。朝日くんが一日中、世界を明るく照らしてクタクタになって帰ってくるのを知っていたのに……。意地を張って、交差点に行くのを怖がっていたの」


二人の間に、張り詰めていたトゲトゲした空気が、すっと解けていく。


「アサヒ、本当にありがとう」


朝日くんが眩しい笑顔を私に向けた。


「君が『悲しい過去も、大切な思い出に変わる』って証明してくれたから、夕日ちゃんのカバンは軽くなったんだ」


「ううん、私はお母さんに教えてもらったことを、そのまま二人に伝えただけだよ」


私はポケットの懐中時計にそっと触れた。


「チクタク」と刻む音が、まるでお母さんが優しく頷いてくれているように心地よく響く。


「でも、朝日くん。まだ安心はできないわ」


夕日ちゃんが少し曇った顔で、足元の光の道路を指さした。


「二人の喧嘩は止まったけれど、私たちがすれ違うための『ひかりの交差点』のエネルギーが、まだ足りないの。世界にあの紫色の空を戻すには、もう一つ、強い輝きが必要みたい……」


見ると、十字に交わる光の道路は、まだところどころがパチパチとひび割れ、消えかかっていた。


一度壊れかけた世界のバランスを元に戻すには、単に仲直りをするだけでは足りないらしかった。


「強い輝きって、どうすればいいの?」


私が訊ねると、朝日くんと夕日ちゃんは顔を見合わせ、それから同時に、私のポケットにある懐中時計を見つめた。


「アサヒ、君のその時計だよ。それは、この交差点のネジそのものなんだ。君が『今を一番楽しく生きている瞬間』の輝きをその時計に込めれば、交差点は完全に復活する!」


「私が、今を楽しく生きている瞬間……?」


「そう。でも、ここは時間の止まった交差点だから、君一人の力じゃ足りない。現実の世界に戻って、君の『今』を誰かと分かち合ってきてほしいんだ。誰かと一緒に笑ったり、心を通わせたりする温かいエネルギーが、この時計を通してここに届くから」


夕日ちゃんが私の手をぎゅっと握った。


「お願い、アサヒ。もう一度だけ現実の世界に戻って、君の新しい未来の輝きを私たちに届けて!」


「分かったわ。私、やってみる!」


私が力強くうなずいた瞬間、懐中時計がこれまでで一番大きな、吸い込まれそうなほどの紫色の光を放った。


「いってらっしゃい、アサヒ!」


「信じて待っているよ!」


二人の声を背に受けながら、私は再び、現実の世界へと引き戻されていった。

(第3話・おわり)

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