第2話。夕日ちゃんの重いカバン
このお話は、私が幼い頃疑問に思った
『朝日はのぼる。夕日は沈む…じゃあ、その朝日どこへ行ったの?夕日は、どこから登るの?』とお母さんに聞いていた幼い頃疑問に思ったことをテーマに、Aiに文章を作ってもらった共同制作の作品です。
私自身がゴビの調整や行間の演出など、こころを込めて編集しています。
幼い疑問への物語
読者の私と一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです
「夕日ちゃんが預かりすぎた『悲しい思い出の重み』を減らして、彼女をもう一度歩かせるために、君の力を貸してほしい!」
朝日くんの必死な言葉に、私は深くうなずいた。
「分かったわ。私にできることなら何でもする!」
私は光の道路の真ん中で、膝を抱えてうずくまっている夕日ちゃんに近づいた。
彼女の背中には、パッチワークでできた大きな革のカバンが背負われていた。
そのカバンは、中から黒いモヤのようなものが今にも溢れ出そうなくらい、パンパンに膨れ上がっている。
「夕日ちゃん、大丈夫?」
「お姉さん……。私、もう一歩も歩けないの。このカバンが重たくて、重たくて……」
「そのカバンの中には、何が入っているの?」
「世界中の人間たちが、夕日を見ながらこぼした『悲しい涙』や『後悔の記憶』よ。『今日という日をやり直したい』とか『あんな過去、消えてしまえばいいのに』とか……。そんな重たい気持ちばかりがこのカバンに流れ込んでくるの。だから私、怖くなっちゃった。みんなに嫌われている夕日なんて、もう昇りたくない。朝日の国になんて、行きたくない……!」
夕日ちゃんが激しく泣きじゃくると同時に、カバンの隙間から真っ黒な泥のようなモヤがドロドロと溢れ出し、足元の光の交差点を黒く汚し始めた。
このままだと、世界は本当に永遠の闇に包まれてしまう。
私は、自分の2年前の姿を思い出していた。
お母さんを亡くし、
「どうして私を置いて逝っちゃったの」
「過去をやり直したい」
と、まさに夕日ちゃんの手を引っ張るようにして、暗い過去の底に沈んでいたあの頃の自分を。
私は夕日ちゃんの前にしゃがみ込み、その小さな手を優しく包み込んだ。
「夕日ちゃん、それは違うよ」
「え……?」
「人間たちが夕日を見て涙を流すのはね、夕日が嫌いだからじゃないの。あなたの光が、あまりにも優しくて、温かいからだよ」
私はポケットから懐中時計を取り出し、夕日ちゃんに見せた。
「私もね、お母さんを亡くした過去が悲しくて、ずっと夕日を見て泣いていたの。過去をやり直したいって、世界の時間をめちゃくちゃにしようとしたこともある。でもね、時間を旅して気がついたんだ。過去は変えられないけれど、それは『不幸なこと』じゃない。あの悲しい過去も含めて、今の私を形作ってくれた、愛おしい私の人生なんだって」
私は夕日ちゃんの重いカバンにそっと触れた。
私が優しく声をかけると、夕日ちゃんは涙をいっぱいに溜めた茜色の大きな目で私を見上げた。
「みんな、あなたに意地悪で悲しみを預けているんじゃないのよ。優しくて静かなあなたの光に包まれて、『今日も色々あったけれど、明日からまた頑張ろう』って、心を整理しているの。あなたのカバンに入っているのは、ただのゴミじゃない。みんなが明日へ進むための、大切な『心の準備』なんだよ」
私が心からそう告げた瞬間、
私の懐中時計が
「チクタク!」
と一段と高く鳴り響いた。
すると不思議なことが起きた。
夕日ちゃんのカバンから溢れ出ていた真っ黒なモヤが、アサヒの言葉の温もりに触れた瞬間、シュワシュワと音を立てて浄化されていったのだ。
黒かったモヤは、見る見るうちに透き通った紫色へと変わり、やがてキラキラと輝く美しいアメジストのような結晶となって、カバンの外へとポロポロと溢れ落ちた。
「嘘……。あんなに重かった思い出が、こんなに綺麗で温かい光になるなんて……」
夕日ちゃんは涙を拭い、自分の手のひらに載った紫色の美しい結晶を、信じられないといった様子で見つめていた。(第2話・おわり)




