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常火の里  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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第五話「常火の告白」


---


参道は、前と違った。


杉木立の闇の中を走りながら、ハルはすぐにそれに気づいた。前回は三百歩以上歩いても光が近づかなかった。今夜は違う。十歩、二十歩と踏み込むたびに、橙と金の光が確実に大きくなっていた。


参道が縮んでいる、とハルは思った。あるいは、今夜は通してもらえるのかもしれない、と。


影の根は至る所にあった。


参道の両脇から、石畳の上を横切るように、何十本もの黒い筋が奥宮へ向かって動いていた。夜の闇の中でも、根は黒よりさらに黒く、それ自体が光を吸い込んでいるように見えた。走りながらミナの手を掴み、根を踏まないよう足元を選んだ。


「大丈夫?」


「走れる」とミナは答えた。息が上がっていたが、声は落ち着いていた。


杉木立が途切れた。


社殿が、目の前にあった。


---


扉が、開いていた。


前回は押しても引いても動かなかった分厚い木の扉が、今夜は内側から押し出されるように、わずかに開いていた。隙間から光が溢れ出していた。橙と金が混じり合い、揺らめき、石畳の上に長い影を落としていた。


ハルは立ち止まった。


扉の隙間から漏れる光を正面から浴びると、また目の奥がじんと痛んだ。しかし今夜は痛みの質が違った。古い記憶を引き抜かれるような感覚ではなく、むしろ何かが胸の奥へ流れ込んでくるような、満ちてくるような感触だった。


「入ろう」とミナが言った。


ハルは彼女を見た。怖くないのか、と聞こうとして、やめた。怖くても入る、という顔をしていた。紙と筆をしっかりと胸に抱えて。


二人は並んで、扉を押した。


---


中は、広かった。


外から見た社殿の大きさでは、到底収まらないほど広かった。天井は高く、暗く、どこまで続くのか分からなかった。床は古びた板張りで、踏むたびに低い音を立てた。


そして、中央に、火があった。


台座も燭台もなく、ただ虚空に浮かぶように、橙と金の炎が揺れていた。炎の高さは人の背丈ほどで、揺れているのに煙が出ていなかった。熱もなかった。炎の傍まで近づいても、肌に熱を感じない。ただ、光だけがあった。


常火だった。


ハルは炎の前に立った。


炎の中に、何かが見えた。


最初は形がなかった。揺らめく光の中に、輪郭のようなものが浮かんでは消えた。しかしやがて、像を結び始めた。


山だった。この里を囲む、巽山だった。


四方の山の中央に、里があった。田畑があり、川が流れ、家々が立ち並んでいた。そして里が燃えた。炎ではなく、光に飲まれるように、里の端から少しずつ白く溶けていった。西の外れから始まり、北、東、南と続いて、最後に奥宮だけが残った。そして奥宮の常火が一際強く輝いて——


すべてが、元に戻った。


里があった。田畑があり、川が流れ、家々が立ち並んでいた。まるで、巻き戻したように。


「見えてる?」とハルは隣のミナに聞いた。


「見えてる」とミナは言った。筆を動かしながら。見たものを、記録しながら。


炎の中の映像は続いた。


里が溶けて、戻る。溶けて、戻る。何度も、何度も。それは時間の流れを圧縮したもののようだった。何十回、何百回と繰り返される光景が、一息の間に映し出された。


「巡りだ」とハルは呟いた。


そうだ、とミナが答えた。声ではなく、紙に書く音で。


---


炎が、変わった。


映像が消え、炎が一度大きく揺れて、それから静かになった。しかし消えなかった。


そして、声がした。


声というより、響きに近かった。音が直接、頭の中に流れ込んでくるような感覚だった。言葉の形をとっているが、耳で聞いているのではない。


——二人が来た。


ハルは息をのんだ。


——また、二人が来た。何度目だろう。数えるのをやめて久しい。


「誰ですか」とハルは声に出して言った。声が震えた。「あなたは誰ですか」


——名前はない。あえて言うなら、この里そのものだ。この巡りそのものだ。


「この里を、あなたが動かしているのか」


——違う。私は動かしていない。ただ、記録している。


「記録」とミナが繰り返した。筆の音が止まった。


——そうだ。この里で生きたすべての者の記憶を、私の中に灯し続けている。消えた家も、消えた人も、消えた時間も。この火の中に、すべてある。


「では、田之助さん一家も」


——ある。彼らは消えたのではない。ここにいる。


ハルは炎を見た。炎の中に、確かに何かが揺れていた。無数の、小さな光が。


——この里は巡り続けている。なぜかは、私にも分からない。そういうものだから、としか言いようがない。人が息をするように、川が流れるように、この里は巡る。巡るたびに、すべてが書き直される。しかし私だけは消えない。すべてを灯し続けている。


「なぜ私たちに話しかけるんですか」とミナが聞いた。落ち着いた声だった。記録者の声だった。「巡りのたびに、こうして誰かに話しかけるんですか」


——いつもではない。ほとんどの巡りでは、誰もここまで来ない。来ようとしない。しかし時々、二人が来る。決まって二人だ。一人ではない。必ず、二人で。


「私たちのような、二人が」


——そうだ。この里に生まれた時代も、立場も、名前も違う。しかし必ず、二人でここへ来る。そして私に会う。


ハルはミナを見た。ミナもハルを見た。


——あなたたちは、何度もここへ来ている。


「何度も」


——何度も。ただ、覚えていない。巡りが変わるたびに、記憶は消える。しかし魂は消えない。この火の中に、あなたたちの記憶も積み重なっている。何度もここへ来た記録が、すべて。


ハルは炎を見た。炎の中の無数の光の中に、自分たちが見えるような気がした。違う姿で、違う名前で、しかし確かに、二人で並んで炎の前に立っている無数の影が。


「毎回、どうなるんですか」とハルは聞いた。「私たちは、毎回どうなるんですか」


炎が揺れた。


長い沈黙があった。


——毎回、離れる。


声がそう言った。


——巡りが終わる前に、必ず離れる。それがこれまでのすべての記録だ。


ハルは何も言えなかった。


——次も、そうなるかもしれない。しかし私にはそれを決める力はない。あなたたちが決めることだ。


「何を決めるんですか」とミナが言った。


——巡りを止めるか、続けるかだ。


「止めることができるんですか」


——できる。ただし、代償がある。


「何の代償ですか」


炎がまた揺れた。今度は大きく、激しく。天井近くまで舞い上がり、社殿全体を橙と金に染めた。


——この里が、消える。巡りが止まれば、次の世界は来ない。この社殿も、この火も、この里のすべてが、本当に消える。田之助一家のように、どこかへ移るのではなく、完全に。


「里の人たちも」


——この巡りに生きているすべての者が。


重い沈黙が落ちた。


ハルはミナを見た。ミナは炎を見ていた。紙が手の中で、かすかに震えていた。


「もう一つ、聞かせてください」とミナが言った。声は震えていなかった。「巡りを続けた場合、私たちはどうなりますか。この巡りの、私とハルは」


炎は答えた。


——この巡りは、もう終わりに近い。西と北が消えた。残り時間は少ない。巡りが終われば、あなたたちも一度消える。そして次の巡りで、また生まれる。別の姿で、別の名前で。しかし、また出会う。


「また、ここへ来るんですか」


——おそらく。これまでがそうだったように。


ミナは炎から目を離して、ハルを見た。


ハルもミナを見た。


炎の光の中で、ミナの目が揺れていた。恐怖ではなく、何か別のもので。


「ハル」とミナは言った。


「うん」


「私は、この巡りを止めたくない」


ハルは少し驚いた。


「里の人たちが消えてしまうから?」


「それもある」とミナは言った。「でも、それだけじゃない」


彼女は炎から視線を外さなかった。


「次の巡りで、また出会えるかもしれない。でも、それは私じゃない。次の名前の、次の姿の、別の誰かだ。この私が、この場所で、あなたの隣にいられるのは、この巡りだけ」


ハルは何も言えなかった。


「だから」とミナは続けた。「この巡りの残り時間を、できる限り生きたい。止めるなら、それを使い切ってから」


炎が、静かに揺れた。


賛同するように。あるいは、悲しむように。


ハルはミナの手を取った。


「分かった」と言った。「じゃあ、残りの時間で何ができるかを考えよう」


——二人に、教えておくことがある。


炎の声が、また響いた。


——巡りを止める方法と、巡りを延ばす方法が、一つずつある。どちらを選ぶかは、あなたたちが決めることだ。しかし、時間がない。東が消えれば、選択肢は一つになる。


「東が消えるまで、どのくらいですか」


——七日。早ければ五日。


ハルはミナと顔を見合わせた。


「教えてください」とハルは炎に向かって言った。「両方、教えてください」


炎が大きく揺れた。


そして、語り始めた。


---


(第五話 了)


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