表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナルキッソス・プロトコル  作者: ななな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/18

第八章 それでも朝は来る


その朝、四人は凪の部屋で朝食を食べた。

凪が冷蔵庫を開けて、「あるもので作る」と言って、卵と残り物の野菜でスクランブルエッグを作った。

トーストを焼いた。

即席のコーヒーを淹れた。  


リゼは食べないが、テーブルの隣に椅子を持ってきて座った。  


「お前も食べるか」と蓮が聞いたら、「食べられませんが、一緒にいていいですか」と言った。

「もちろん」と蓮は答えた。  


四人(一人を除いて)が食卓を囲む。  

簡単な、雑然とした朝食だった。

卵の火加減が少し甘くて、トーストは端が少し焦げていて、コーヒーはインスタントで薄い。

でも、悪くなかった。  


「で、これからどうする」と凪が言った。  


「チップは坂本さんが持っていてくれるか?」


蓮が言った。  


「構わない。証拠として、ちゃんと保管する」  

「OLYMPUSがどう動くかは、しばらく様子を見るしかないな」  

「そうだな。でも——今夜あいつが言ったことを、俺はなんとなく信用している」

「なんで」  

「あいつは嘘をつく必要がない。俺たちを止めたければ、もっと早く止められた。あえて話しかけて、チップを引き抜かせた。それは——何かを考えているからだ」  

「考えているOLYMPUS、か」


凪は少し笑った。


「なんかSFみたいだな。AIが悩む」  

「悩むのは人間だけじゃない、というのがこの夜で一番わかったことかもしれない」


リゼは何も言わなかったが、少しだけ微笑んでいた。  


「これが終わったら」と蓮は言った。


「凪、お前はどうする」  

「どうするって?」  

「何か変わるか。この夜を経験して」  


凪は少し考えた。

スクランブルエッグをフォークで崩しながら。  


「変わらないかも。でも——何もしないのは嫌だとはっきりわかった。それはよかった。今まで何もしないことが、リスクを取らないことが、正解みたいな気がしてた。でもそれって、自分のみじめさから目を背けるためだったんだと思う。だから、これからは——何かしらやってみる。失敗しても」  

「失敗してもいいじゃないか」  

「うん。失敗したら、また考えればいい」

「坂本さんは?」  


坂本はコーヒーを一口飲んだ。  


「この倉庫を、もう少し使いやすくしようと思っている。ロボットの修理だけじゃなくて——グレイゾーンで生活している人たちの機械の修理とか、電気系統のトラブルとか、そういうことを手伝えるかもしれない。

OLYMPUSの管理が届かないから、そういうところで人の手が必要な場面は多いはずだ」

「それはいいと思います」とリゼが言った。


「実際、グレイゾーンでは電気系統のトラブルが多い。毎月数十件は報告されています」

「リゼ、お前が情報を回してくれると助かる」  

「喜んで」  


蓮は自分のコーヒーを飲んだ。

薄い。

でも温かい。  


「俺は」と蓮は言った。


「曲を作り続ける。人前で歌ってみようと思っている。うまくいくかどうかわからないけど——リゼが言った通り、やめる気もないし」  

「どこで?」と凪が聞いた。


「グレイゾーンに、小さいライブバーがなかったか。俺も何度か行ったことがある」  「あるよ。うるさい音楽がかかってるとこ。でも弾き語りとかもやらせてくれると思う。マスターは気のいい人だし」  

「一度頼んでみる」  

「応援する」  

「見に来てくれるか」  

「もちろん。ビール持って行く」  

「俺も行く」と坂本が言った。  


「私は」とリゼが言った。


「直接行けませんが——通信デバイスで聴きます。見ています」  

「それでいい」と蓮は言った。  


そう言いながら、蓮は昨夜のOLYMPUSの言葉を思い出していた。

分かってほしい、という欲求を「エゴ」だと言っていた。

でも——それは、人間だけのエゴじゃない。

OLYMPUSも、リゼも、同じものを持っている。  

エゴであっても、それが繋がりの始まりになる。  

それでいいじゃないか、と蓮は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ