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ナルキッソス・プロトコル  作者: ななな


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12/18

幕間 凪の夜


蓮がライブを始めてから二週間後の夜、凪が酔って蓮のシェアハウスの部屋のドアを叩いた。  

深夜一時だった。  

「なに」と蓮がドアを開けたら、凪が立っていた。

ビールの缶を持って、顔が少し赤かった。


「話したいことがある」  

「明日でいい」  

「今がいい」  


蓮は仕方なく、凪を部屋に入れた。

部屋は狭い。

ベッドと机と、小さな本棚しかない。

凪は机の椅子に座った。

蓮はベッドの端に腰を下ろした。  


「なんだよ」  

「親から連絡が来た」  

「久しぶりか」  

「三年ぶりだ。就職しろという内容だった。グレイゾーンにいると聞いたらしくて、心配してた。でも、心配の仕方が——なんか、上から目線なんだよ。あなたのためを思って、みたいな言い方で、実際には自分たちが恥ずかしいから何とかしろってことで」  

「それで、どうした」  

「無視した。でもなんか、むしゃくしゃして飲んでた」  


蓮は少し考えた。  


「俺の親も、似たようなもんだ」  

「そうなの」  

「勘当みたいな感じで出てきたから。たまに考えるよ、あの人たちのこと。でも連絡する気にはなれない」  

「蓮は、悲しくないの」  

「悲しくないわけじゃないけど——なんか、すっきりしてる部分もある。期待されないから、裏切れない。期待を持たれないことが、こんなに楽だとは知らなかった」  


凪はビールを一口飲んだ。  


「私は逆に、期待されてたと思う。成績よかったから、ちゃんとした職に就くだろうって。それが、プレッシャーだったのかもしれない」  

「だからグレイゾーンに来たのか」  

「来たというか——逃げたのかも。でも逃げてきたここで、なんかいろいろやってたら、気づいたら仕事になってた。人生、わからんな」  

「わからんな」  


二人はしばらく黙った。  


「ねえ、蓮のその曲さ」と凪は言った。

「うん」  

「皆様に質問があります、っていうの、誰に聞いてるんだ、あれ」  

「誰に、か」


蓮は少し考えた。


「最初は——自分に聞いてた気がする。あなたは自分が大好きですか、って、俺が俺に聞いてた。でも今は——誰かに、かもしれない。誰でもいい誰かに」  

「そっか。なんか、答えたくなるんだよな、あの曲聴くと」  

「答えてくれなくていい」  

「でも、答えたくなる。俺も大嫌いだ、って言いたくなる。大嫌いだけどここにいる、って言いたくなる」  

「それが、俺の曲に届いてほしかったものだ」  


凪は少し驚いた顔をした。  


「はっきり言うな、最近」  

「お前に言われた気がした、以前。はっきりしろって」  

「そんなこと言った覚えないけど」  

「雰囲気で言ってた」  


凪は笑った。  


「まあ、いいか。ありがとな、蓮」  

「感謝すんな」  

「お前のセリフをパクるな」  

「俺のセリフだろ、もともと」  


凪はビールを飲み干した。  


「もう一本もらえるか」  

「自分の部屋で飲め」  

「ここの方が居心地いい」  

「褒めてんのか」  

「褒めてる」  


仕方なく、蓮は冷蔵庫からビールを出した。

自分の分も出した。  

二人は深夜に、狭い部屋でビールを飲んだ。

特別な話は何もしなかった。

でも、それでよかった。     


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