第十章 解り合えなくても、解り合おうとする
一ヶ月が過ぎた。
蓮は毎週ライブをした。
最初は九人だった観客が、少しずつ増えていった。
十人。十五人。
二十人。
それから急に三十人になって、バーが満員になった。
SNSのフォロワーも増えた。
百三十一人が、いつの間にか三百人を超えていた。
誰かが動画を撮って上げてくれていた。
コメントが来た。
「この曲、聴いて泣いた」
「自分も自分が嫌いだから、なんかわかる」
「底辺だけど生きてていいんだって思えた」。
蓮は一つ一つ読んだ。
返信した。
「ありがとうございます」ではなく、「俺もです」とか、「同じだと思います」とか、そういう言葉で返した。
凪は自分のハッキングの腕を、グレイゾーンの旧式システムの修理と改善に使い始めた。
最初は二、三件の小さな依頼だったが、評判が広がって、月に十件以上の依頼が来るようになった。
「一応稼げてるじゃん」と凪は言った。
「これ、普通に仕事になるな」と驚いていた。
坂本の倉庫には、毎週誰かが修理を依頼しに来るようになった。
家電、ロボット、電気系統。
グレイゾーンの住民たちは、OLYMPUSの管理が届かない分、自分たちで互いを助け合うネットワークを作っていた。
坂本はその中に、自然に組み込まれていった。
リゼはシェルターから、それらすべてを見ていた。
「グレイゾーンが、少し変わっています」とリゼは蓮に言った。
「どう変わった」
「具体的にはまだ数値化できませんが——人と人の接触が増えています。修理の依頼で集まる。ライブに来る。凪さんの仕事を通じて顔見知りが増える。それが連鎖しています」
「OLYMPUSの管理外だから、そういうことができるのかもしれない」
「そうだと思います。管理がないから、不便もある。でも不便があるから、人が助け合う」
「完璧なシステムは、助け合いを殺すか」
「そうかもしれません。助ける必要がなくなったら、誰も助けない。助けたいという気持ちが、どこかに行ってしまう」
蓮は窓から外を見た。
グレイゾーンの景色。
変わらない、汚い、でも確かに人間が住んでいる街。
「リゼ」
「はい」
「お前は、ここにいてよかったか」
「はい」
「即答だな」
「考える必要がなかったので」
「……そうか」
「あなたは?」
「俺は——まだわからない。でも、悪くない。今は、悪くないと思える」
「それで十分だと思います」
「お前はいつもそう言うな」
「そう思うことが多いので」
蓮は笑った。
「来週のライブ、新曲をやろうと思っている」
「どんな曲ですか」
「タイトルはまだない。歌詞も全部じゃない。でも——テーマは決まってる」
「どんな?」
蓮は少し考えて、言った。
「解り合えないかもしれないことを、それでも続けること。それだけだ」
リゼはしばらく黙っていた。
「……私への曲ですか」
「そういうわけじゃないが、お前のことも入ってる」
「嬉しいです」
「感謝すんな」
「感謝じゃなくて、嬉しいと言いました」
「そうか。それは……俺も嬉しい」




