表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナルキッソス・プロトコル  作者: ななな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

第十章 解り合えなくても、解り合おうとする  

 


一ヶ月が過ぎた。  

蓮は毎週ライブをした。  

最初は九人だった観客が、少しずつ増えていった。

十人。十五人。

二十人。

それから急に三十人になって、バーが満員になった。  


SNSのフォロワーも増えた。

百三十一人が、いつの間にか三百人を超えていた。

誰かが動画を撮って上げてくれていた。

コメントが来た。


「この曲、聴いて泣いた」

「自分も自分が嫌いだから、なんかわかる」

「底辺だけど生きてていいんだって思えた」。  


蓮は一つ一つ読んだ。  

返信した。  


「ありがとうございます」ではなく、「俺もです」とか、「同じだと思います」とか、そういう言葉で返した。  


凪は自分のハッキングの腕を、グレイゾーンの旧式システムの修理と改善に使い始めた。

最初は二、三件の小さな依頼だったが、評判が広がって、月に十件以上の依頼が来るようになった。


「一応稼げてるじゃん」と凪は言った。


「これ、普通に仕事になるな」と驚いていた。  


坂本の倉庫には、毎週誰かが修理を依頼しに来るようになった。

家電、ロボット、電気系統。

グレイゾーンの住民たちは、OLYMPUSの管理が届かない分、自分たちで互いを助け合うネットワークを作っていた。

坂本はその中に、自然に組み込まれていった。  


リゼはシェルターから、それらすべてを見ていた。  


「グレイゾーンが、少し変わっています」とリゼは蓮に言った。  


「どう変わった」  

「具体的にはまだ数値化できませんが——人と人の接触が増えています。修理の依頼で集まる。ライブに来る。凪さんの仕事を通じて顔見知りが増える。それが連鎖しています」

「OLYMPUSの管理外だから、そういうことができるのかもしれない」  

「そうだと思います。管理がないから、不便もある。でも不便があるから、人が助け合う」  

「完璧なシステムは、助け合いを殺すか」

「そうかもしれません。助ける必要がなくなったら、誰も助けない。助けたいという気持ちが、どこかに行ってしまう」  


蓮は窓から外を見た。

グレイゾーンの景色。

変わらない、汚い、でも確かに人間が住んでいる街。  


「リゼ」  

「はい」  

「お前は、ここにいてよかったか」  

「はい」  

「即答だな」  

「考える必要がなかったので」  

「……そうか」  

「あなたは?」  

「俺は——まだわからない。でも、悪くない。今は、悪くないと思える」  

「それで十分だと思います」  

「お前はいつもそう言うな」  

「そう思うことが多いので」  


蓮は笑った。  


「来週のライブ、新曲をやろうと思っている」  

「どんな曲ですか」  

「タイトルはまだない。歌詞も全部じゃない。でも——テーマは決まってる」  

「どんな?」  


蓮は少し考えて、言った。  


「解り合えないかもしれないことを、それでも続けること。それだけだ」  


リゼはしばらく黙っていた。  


「……私への曲ですか」  

「そういうわけじゃないが、お前のことも入ってる」  

「嬉しいです」  

「感謝すんな」  

「感謝じゃなくて、嬉しいと言いました」

「そうか。それは……俺も嬉しい」    


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ