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第10話:魔物奴隷(オートメーション)の誕生

「……お嬢様。その……あの中の光景は、控えめに言って地獄絵図なのですが」


 領都の外縁部に新設された『第2次精錬・梱包工場』。その視察に同行したベルが、震える声で窓の隙間を指差した。


 工場内では、数十体の『フォレストウルフ』と『ホブゴブリン』が、整然と並んだ回し車の中を無感情に走り続けていた。

 彼らの首には、アイリスが設計した藍色の金属首輪――『マナ吸着式拘束具リーバース・カラー』が装着されている。

 彼らが運動することで発生する生体マナと物理エネルギーは、首輪を通じてグリッドへと供給され、精錬炉の「補助動力」として変換されていた。


「何が地獄なの? 二四時間体制での安定稼働。給餌(マ出費)を最適化しつつ、排出エネルギーを最大化する。これほどまでに環境に配慮した『持続可能な動力源クリーン・エネルギー』は他にないわ」


 アイリスは、手に持ったボードに数値を書き込みながら淡々と言った。

 彼女の瞳には、苦しそうに走る魔物への同情など微塵もない。


「環境……に優しい。確かに、薪を燃やすよりはそうかもしれませんが。……でも、彼らは魔物ですよ? いつ暴れ出すか……」


「暴れ出す? 冗談。この首輪は、彼らが反抗的な思考を持とうとした瞬間に、体内のマナを強制的に〇・二パーセントだけドレインして、軽い貧血状態に陥らせる『自己抑制回路』が組み込まれているわ。……今の彼らは、自分たちが走っている理由すら疑う余地を持たない、ただの優秀な『生物パーツ』よ」


 アイリスの解説に、ベルは頬を引き攣らせた。

 かつて王都でアイリスが「悪役」と呼ばれていた理由を、今の彼は物理的な恐怖として理解し始めていた。


「カイル様。そちらの『ゴブリン・ジェネレーター』の出力、三番ラインに偏っているわ。磁束のバランスを調整してちょうだい」


「……承知した。しかしアイリス様、冒険者ギルドから正式な抗議文が届いています。『魔物を捕獲して働かせるのは、冒険者の本来の役割である討伐・素材回収の利権を侵害している』と」


 カイルが、困ったような顔で一枚の書面を差し出した。

 

「利権? 笑わせないで。彼らが一週間かけて一匹の魔物を殺し、腐りかけの素材を持ち帰る効率と、私がその魔物を十年間にわたって『発電機』として回し続ける効率、どちらが領地の利益になるかは火を見るよりも明らかよ」


「それはそうですが……。彼らにとって、魔物は『倒して報酬を得るもの』です。生かしたまま工場に納品しろと言われても、彼らのプライドが――」


「プライド? そんな非生産的な感情、換金できるのかしら?」


 アイリスは、抗議文をシュレッダー(のような魔導具)に放り込み、粉々に砕いた。


「いい、カイル様。彼らが不満なのはプライドではなく『報酬体系が変わること』への不安だけよ。……明日、冒険者ギルドの支部長を呼び出しなさい。彼らの『仕事』の定義を、私がスマートに再定義リデザインしてあげるわ」


「再定義……ですか」


「ええ。『単発の殺し屋』から、『サブスクリプション型の資源提供者』への転換よ」


 アイリスの口元に、獲物を捕らえた蜘蛛のような、冷徹な微笑が浮かんだ。


 その日の午後。

 工場の裏手にある「福利厚生スペース(という名の、魔物用の高栄養プロテイン配布所)」で、アイリスは一匹の老いたゴブリンと目を合わせた。

 ゴブリンは疲れ果てた目でアイリスを見上げ、渡された液体を飲み干した。


「……ベル。見て。このゴブリン、昨日の走行データよりも心拍数が安定しているわ。このプロテインの効果ね」


「……お嬢様。……あなたは、彼らを救おうとしているのか、それとも徹底的に使い潰そうとしているのか、どっちなのですか?」


「最大限に活用するためには、適切なメンテナンスが必要よ。……壊れたパーツを買い替える(新しく捕まえさせる)よりも、修理(健康管理)して長持ちさせる方が、長期的な投資収益率(ROI)が高い。ただそれだけのことよ。……愛玩動物ではないのだから、無駄な慈悲は持たないことね」


 彼女の論理に、慈愛の入り込む隙間は一ミリもなかった。

 だが、その冷徹な「最適化」の結果として、エメラルド領からは重労働が消え、領民たちは安全な街の中で、魔物のエネルギーを使った温かい生活を送ることができている。


 救聖女でも、慈母でもない。

 ただ、世界を「あるべき数値」へと強制的に導く、美しき管理官。


 アイリス・フォン・エメラルド。

 彼女の「魔物奴隷化計画」は、周辺諸国の倫理観を置き去りにし、圧倒的な速度でエメラルド領を魔導工業国家へと押し上げていく。

第10話、お読みいただきありがとうございました!

「魔物を発電機にする」という、アイリスの効率至上主義が炸裂した回でした。

愛する対象でもなく、ただの「部品」としてメンテナンスを施すアイリス。

この「優しさに見えるけど、中身はただのメンテナンス」というギャップが彼女らしいです。


次回、怒れる冒険者たちと対峙するアイリス。

「殺して終わり」の冒険者稼業が、彼女の論理によってどう「再定義」されるのか?

「効率的な冒険」の誕生をお楽しみに!

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