97話 上機嫌?
「え?今なんか言ったか?よく聞こえなかったが」
「今のは日本で明治時代に定着した古風な聖書表現のひとつね」
俺が聞こえてる体で説明しちゃうのかよ。聞こえはしたがそんな事より掴まれた腕がビクともしない
「へーそうなのか。もっかい言ってくれるか?」
後ろから抱き寄せて右腕をおっぱいにーーじゃなかった引き寄せようとしてるってのに全然ダメだ動かない
「汝、姦淫することなかれ。そう言ったのよ…」
後ろから顔色を伺っても、俺の腕を押さえ付けるのに苦を感じている様子はない
「おらあぁぁ!……はぁ…ダメだこりゃ。それで意味は?…」
くっそ涼しい顔しやがって……どうにか一揉みだけでもして分からせてやりたいんだが
女の子に力で勝てないなんてことは無いと思っていたが、今の俺は力で分からされている
くっそどうすればおっぱいを……おや?…
腕が動かないなら俺が九条の体を前に押しやっていけばいいんじゃね?…
神の知恵を授かった俺は、自分の体の重心を前に押しやって気付かれないように少しずつ九条の体を前のめりにさせていく
「時代や家柄によって意味は変わってくるけど、配偶者以外に体を許してはならないと言うのが一般よ」
「…へぇーそうなのか。…おー柔らか…」
「…ッそ…そうよ…」
何がとは言わないが、ようやく手のひらに収まってこねくり回していたっていうのにそんな怖いこと言われたら離すしかないな
「…ん?…」
しかし俺はある違和感を感じた。最初こそ柔らかいと感じたが、そんな事はなくむしろ硬いかもしれない。しかもこの感触には覚えがあった
この感触………確かコレはーー
俺の中でムダな知識が蘇り、あの時の記憶が頭の中を駆け巡った
『ルナはモールドカップブラジャーってゆーので形を守りつつ小さく見せててね』
「あの……蓮くんそろそろ…」
確か胸の形を綺麗に保つブラで、しかも小さく見せれるとかってルナが力説してたヤツじゃないか?
あの時背中で感じた感触が今は俺の手のひらにあった
「そんなに夢中になるほどいいものかしら?…」
いやちょっと待てよ?……てことは九条って脱いだらルナよりデカいってことか?
なんてこったよ!胸を小さく見せてても結構な大きさなんだが!でも残念な事に見る機会がないんだよなぁ………いや本当に残念なことに
見る事が叶わぬ落胆で急に冷静さを取り戻した俺は、自分の右手が未だにこねこね動いていた事に気付く
されるがままにこねこねされていた九条は、ただ鋭い眼差しで俺を黙って見上げていた
「あー……………なんか止まれなくてごめんって俺の右手が言ってるみたいでさ。俺からもごめんな」
「配偶者になりたいって行動で示しているの?…」
「俺まだ高校生なんだが…」
「あら、蓮くんなら私は大丈夫よ?」
「俺で大丈夫な理由とかあるのか?」
「私の家と私が遺伝子至上主義だからよ…」
「ん?…いやそんな風習みたいなの捨てて普通に生きた方が良くないか?」
珍しくそれには俺もドン引きなんだが
「ムリね。九条家に生まれた以上は」
「おまえが俺に甘々なのは遺伝子至上主義だからってことか?…」
そうだったら寂しくて泣いちゃう…
「いえ、それは関係ないわ」
「じゃあなんでだよ」
「そ、それは………色々あったのよ…」
いつの間にか掴まれた手首は離されていたが、九条は俺に密着したまま離れようとはしなかった
そしてちょっとだけ九条の耳が赤い。たぶん今は顔も赤いんだろうか…
「その色々が気になるんだが…」
「とにかくまた触りたいなら配偶者になってくれないとダメね」
なに!?結婚すればブラで押さえつけられた胸を拝めるどころか揉み放題だと!?
いや冷静になれ。俺は高校卒業と共にアメリカに行くんだぞ。煩悩に流されてどうする
いやしかし俺にだけ甘々な子と結婚したら触り放題でーーいやよせ俺。落ち着けオイ
「文化祭の最終日…」
「突然なんだ?…」
何も喋らない俺を見て言葉に詰まっていると勘違いしたのか、九条は助け舟を出してきた
「文化祭の最終日に私と剣道で勝負しましょう。負けた方がなんでも相手の言うことを一つだけ聞く。というのはどうかしら…」
「……剣道?俺やったことないが」
「切先が少しでも掠めたら蓮くんの勝ちでいいわ。ルールはその時決めましょう」
「…………」
負けたらいいなりになるって事か?でも俺が勝ったらそんなくだらん考え捨てて生きろって言ったら従ってくれる筈だよな?
「ムリにとは「やるわ」
本人が遺伝子至上主義って言ってる時点で結構難しいかもしれないが。でも俺が卒業までに九条にしてやれる事なんてそんな事しかない気がするしな
「あら、蓮くんってば自信満々ね。それまでちゃ〜んと練習しておくのよ?」
「分かってんよ…」
密着したまま会話を続けているだけなのに、何故か九条は少しだけ上機嫌だ
「それじゃそろそろ話を戻すわね」
「あぁ。西城の話か?」
「いえ、体育祭の話よ…」
いやめっちゃ戻るじゃん
「西城の話にしないか?川島っていうボディーガードが居なくなった事が気になってこれじゃ夜しか寝れねーよ」
「夜寝れるなら大丈夫よ。もう体育祭も近い事だし蓮くんにはお仕事をお願いしようと思って…」
「いやさっきも言ったけど俺当日はめっちゃ応援で忙しくてさ。ちょっとムリそうなんだよな…」
「どんな仕事か聞かなくていいのかしら?」
「じゃ聞くけどどんなだよ…」
「簡単な見回りみたいなモノよ。あとゴミ拾いや清掃、揉め事の仲裁とかそんなところね」
「…………」
めちゃくちゃゴミみたいな仕事押し付けてくるじゃねーか九条のヤツゥ……
「それと……」
「なんだよ?」
「ついでに川島さんと西城さんの仲が険悪になっていたらなんとかしてあげなさい」
「…素直じゃねーな…」
「夜しか眠れなかったらソファを買った意味が無くなるからよ」
「まぁそーゆう事にしておくけどさ。てか体育祭っていつだっけ?…」
「明後日よ。それじゃ明日は設営日だから、設営と各学年の見回りもよろしくお願いするわね」
「…俺そこまでやんのかよ…」
流石に実行委員でもないのに押し付け過ぎじゃないですかね
「あら?十分堪能したじゃない?」
「……はい…やります…」
「ふふ。いい返事をありがとう蓮くん♪」
上機嫌にお礼を口にした後、九条は弁当箱を持って生徒会室のドアの前まで歩いていった
「どーいたしまして」
「それじゃ私は先に帰るわね。蓮くんも落ち着いたら戸締りして鍵を返しておいてね?」
「ん?落ち着いたら?」
「えぇ。ホモだなんて噂が立っていたから心配だったのよ。でもちゃんと反応できて偉いわね」
悪戯心が垣間みえる笑顔で扉をゆっくり閉めた後、廊下から九条の鼻歌が響いてきた
それからすぐに俺は自分の股間に視線を向けた
「うーん…れんれんのれんれんがフルパワーってか」
こんなんで上機嫌になるとかよく分からんな。でもルナの奴もニヤニヤしながら上機嫌になってたっけな




